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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
23/25

ダンシング店長。

 課長に昇格した川西店長の次にやってきた店長は、西口にしぐち店長、40代前半。小柄で細身で小さい感じの店長だった。

 話した感じでは、そんな悪い人ではないような気がした。ただ、オープン当時にここの店長だった城田店長と同期だそうで、マニュアルが完成する前の人だったから、仕事の面ではちょっと古い動きをしているような印象はあった。






 店長が代わるのと同時に、ここのエリアの担当課長も代わった。福田店長が課長に昇格したのは聞いていたが、なんと、今回の異動でこのエリア担当になったのだ。

 福田リーダーは、私がうどん屋に入りたての頃、研修先の店舗で店長をしていた人だ。優しく楽しくレジの仕事を教えてもらった記憶がある。

「北村さん~久しぶりやんっ」

うちの店を覗きに来た福田リーダーが私に声をかけてくれた。3回ほどしか研修に行ってなかった私のことをちゃんと覚えていてくれたみたいだ。

「すっごい久しぶりですね!またよろしくお願いします」

こうして3年ぶりぐらいに福田リーダーとの再会を果たしたのだった。






 そして、西口店長はというと、一緒に仕事に入ってみて、少し違和感を感じたのだった。とくに私たちの仕事ぶりに口うるさくもなく、何も言わないし、とてもおとなしい人なのだが、なんというか、動きがコミカルなのだ。

「すごい、忙しいですね!」

と、この店に初めて来た日に西口店長は言った。

「平日のお昼はいつもこんな感じですよ。今日はまだ暇な方かも」

と、私たちは答えた。どうやら、西口店長が前にいた店舗はかなり暇な店舗だったようなのだ。昼ピークを迎え、バタバタと動き回る私たちを見て、ビックリしている様子だった。そして、それに負けじと動く店長なのだが・・・どのポジションに入っても、小さくリズミカルに揺れるのだ。

「なにあの動き・・・」

久保さんの目が点になっていた。店長の足元を見ると、片足を少し前に置き、前後に揺れるように動きながら仕事をしているのだ。釜で麺を茹でる時も、センターでうどんを作る時にも、フライヤーで天ぷらを揚げる時にも、レジで画面を打つ時にも、フレッシュで洗い物をするときにも・・・何をするにも小刻みに揺れているのだ。

「あんだけ動いたら太らへんわな」

と、かずちゃんも言う。確かに、店長は細身だ。西口店長にしてみたら、忙しい店に異動になったから、こんなコミカルな動きで全力で必死に仕事してるのかな・・・という意見も多かったが、暇な時間帯でもやはりいつも揺れているので、単なる癖なんだろう、ということで話はついた。






 西口店長の近くにいると、整髪料の香りなのか、ダンディなオジサマのようなニオイがする。私たちは別にそのニオイが嫌だとは感じなかったのだが、1人だけ、

「あの店長のニオイ嫌!」

という人物がいた。

 その人物は、なんと、あの伊藤さんだった。

「え・・・人のニオイを嫌とかいう前に自分はどうなの・・・」

みんなはビックリしていた。

「整髪料のニオイと加齢臭やったら整髪料の方がいいに決まってる」

「だよねー」

伊藤さんを除く全員の答えは同じだった。






 うちの店では、毎月店舗ミーティングが行われる。今回は店長が代わって初めてということもあって、普段参加しない伊藤さんまでも参加することになった。

「え・・・伊藤さんも来るの?」

ミーティングは店の隅の座敷を使って行われる。6人ぐらいしか座れない座敷に、福田リーダーと西口店長に今回参加するクルーは私、久保さん、かずちゃん、梅垣さん、伊藤さんで、計7人が集結することになる。伊藤さんと寄り添って座ると、ニオイがきついだろうなぁ・・・と、そんな心配もしてしまうのだった。

 結局、私が店長と福田リーダーと一緒の列に座って、伊藤さんからは一番遠い席についた。この日は、伊藤さんは仕事が休みだったのだが、わざわざミーティングに参加した理由が後からわかったのだった。






 ミーティングのこの日は、坪田さんがこの店の研修を終える日だったのだ。明日からは、私たちが研修を受けた店で、マネージャーとして頑張ることになったのだ。

そして、ミーティングが終わり、私たちは坪田さんに声をかける。

「次の店に行っても頑張ってね」

「坪田さんだったらきっと可愛がってもらえるから大丈夫よ」

「また彼女でも連れて食べにおいでよ~」

坪田さんは可愛らしい笑顔で

「はいっお世話になりました!」

と、答えてくれた。

 店の外に出た私たちは、伊藤さんだけがまだ店内に残ってることに気が付いた。

「あれ?伊藤さんは?」

「わっ見て!坪田さんの真ん前にいるよ。何してるんだろ」

窓ガラス越しに店内の様子を見ると、フライヤーのポジションで油の前に立っている坪田さんのカウンターの前に、伊藤さんがドーンっと立っていて、微動だにせずに坪田さんを見つめていたのだ。お互いの口が動いていないことから会話はしていないようだ。

「え、何してるの・・・?」

伊藤さんの素振りがどことなくモジモジとしている。

「まさか・・・今日で坪田さん最後だから連絡先聞こうとしてるんじゃ?」

「ええ~~ないわ~~、それって狙ってるってこと?」

「坪田さんの車に乗ったからなぁ・・・それも助手席に。もう伊藤さんの中では『友達以上恋人未満』の関係やと思ってるんちゃうかな」

「そんなんこわいしっ」

 その後も、伊藤さんは坪田さんの前を全く動こうとしないので、私たちはもう帰ることにした。






 こうして、店長は代わり、マネージャーはうちの店にはいなくなった。今年は新入社員が坪田さんの他に数人いたが、みんな辞めてしまったらしいのだ。なので別のマネージャーがこの店に来ることもしばらくないだろう。パートとアルバイトだけで乗り切る日も多々あるだろう。小刻みに動いて、無駄な動きが多い店長は当てにはしない。私たちで頑張る!そんな気持ちで一杯だった。


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