可愛い新人君。
病んでるマネージャーがこの店を去った後に、やってきたのはまだ入って数か月の新入社員の坪田さんだった。川西店長曰く、『関ジャニの横山君をちょっとブサイクにしたような顔の子』という情報だった。最初は、その情報だけで「ブサイクにしたってことはブサ男ってことじゃないの?」などとみんな期待はしてなかったのだが、実際に坪田さんが来てからは、かなりの好印象だった。
坪田さんは、22歳だったが、かなりの童顔でまだ高校生ぐらいに見える容姿だった。素直な感じに育ってる印象で、笑うととても可愛い顔をしていた。
「あの子、可愛いね」
「素直そうやし、ええ子やわ」
などと、クルーの中でもかなり評判は良かった。
この坪田さんは、気を遣う人でもあることが判明した。坪田さんがこの店に来て間もない頃、仕事が終わってクルールームに行った私と、一緒になったことがあるのだが、この時、店のお偉いさんたちが来ていて、ちょうど坪田さんの話を聞いていたところだった。その時に、お偉いさんが坪田さんに質問を投げかけたのだ。
『この店で一番美人なのは誰やと思う?』
ちょうど、坪田さんがこの質問を受けた時に、私が着替えを終えて目の前に現れたので、坪田さんが
「あ、北村さんです・・・」
と、気を遣った発言をしたのだ。
「なんで私やね~ん!」
と、軽く笑っておいたが、坪田さん的に、他の女性の名を言いにくい状況だったのだろう。このタイミングでこういう質問をするお偉いさんが悪い。
それ以来、この子はきっとめっちゃ人に気を遣うタイプなんだろうなぁ・・・と認識した私は、そういう印象で坪田さんを見ていた。
そして、坪田さんを交えて楽しい仕事の日々が始まった。坪田さんは、お昼の主力クルーたちの、年齢不詳さにとても驚いていた。私やかずちゃん、久保さん、平塚さんなど、実年齢よりも若くて綺麗なメンバーに本気でビックリしていたらしい。よくお客様に、私と久保さんが姉妹じゃないのかと間違われるのだが、『似てるっていわれるけど姉妹じゃないよ』ということも坪田さんに言っておいた。美人の久保さんと姉妹に間違われることは私にとってすごい嬉しいことなのだが、この日もお客様に『あなたたち姉妹?』と聞かれたので、ついでなので坪田さんにも説明しておいたのだ。
坪田さんは、まだマネージャーの役職にもついていなかった。でも、もう間もなく昇格試験があるとかで、マネージャーにもなればあちこち移動もするし・・・というわけで、自分の車を購入したそうだ。そして、納品の日。仕事先のこの店まで持ってきてもらうことになっていたらしく、坪田さんはウキウキしていたそうだ。
そして、この日に事件が起きた。
車が無事納品され、坪田さんは仕事が終わる22時半まで店にいた。その少し前の20時頃、仕事が休みだった伊藤さんが、店にシフトの変更届を出しに来たらしいのだが、なぜか、用紙を提出してもすぐに帰ろうとせず、なんとそのまま2時間ほど店にいて、坪田さんたちが帰る時間と一緒になったらしいのだ。そこで、どこからそうなったのかは不明だが、
「同じ方向だから乗せてあげれば」
みたいな話になったらしく、なんと納品されたばっかりの新車に、伊藤さんを乗せることになってしまったらしいのだ。きっと、坪田さんのことだから『嫌です』とは言えなかったのだろう。
しかし、付き合っている彼女も乗せたこともない新車に、伊藤さんを乗せることになるなんて、それだけでも憂鬱だっただろうに、
「助手席には乗ったらあかんよー!」
と、みんなに言われたにも関わらず、伊藤さんが強引に助手席に乗り込んだらしいのだ。新車が来て、最初に隣に乗せた女性が伊藤さん・・・これは、かなりイタイ話だ。
私たちは、この話を後日聞いたのだが、初めて乗せた人が伊藤さんということで、坪田さんにかなり同情してしまった。
「伊藤さん乗せて・・・臭くなかった?」
と、久保さんが坪田さんに聞いたら
「臭かったです・・・加齢臭ですね」
という返事が返ってきたらしい。加齢臭だと簡単に納得されるとそれ以上は何も言えなくなるが、新車の車にしばらく臭いが残ったそうで、なんとも言えず、悲しい出来事だった。
その数日後、突然川西店長が言い出した。
「俺、もう異動になるわ」
どうやら、仕事ぶりが認められて、めでたく課長に昇進が決まったようだった。
「おめでとうございます~!って、また店長変わるってことだね」
この店は本当に異動が多い。オープンから3年半。今度の店長で5代目だ。
噂によると、今度の店長は、以前にマニュアルロボット中田店長がアイドルクルーの林田さんを遊びに誘った時に、一緒に来た店長の一人だったらしい。と、いうことは林田さんと面識がある人物がこの店にやってくるわけだ。また、歴代店長のように林田さんの虜になるのだろうか・・・。