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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
21/25

読み通り。

 虚言癖でっ見栄っ張りの伊藤さんは、相変わらず体臭をプンプンさせて、出勤していた。

「夏になると・・・あの臭いどうなるんだろう」

私たちクルーの悩みは、もう限界だった。しかし、マネージャーが直接言ってくれても、全くの効果はなく、少しでもニオイを気にするような素振りもなく、我慢するしかなさそうだった。そんな中、伊藤さんが5月の連休中に引っ越すという噂が立ったのだ。お父さんの病院が転院になるらしい、とのことだった。

一部のクルーの中では、ひそかな期待があった。

「もしかして、引っ越すってことは、辞めるかな?」

「そしたらニオイから解放されるね」

ここまで嫌われる伊藤さんもすごいと思う、みんなの反応だった。






 しかし、実際には5月を過ぎても、伊藤さんがお店を辞める気配もなく、引っ越し話すらなくなったというのだ。どうやら、この引っ越し話も虚言癖からきている嘘のようなのだ。引っ越しして、店を辞めると言ったら、みんなが引き止めてくれるんじゃないかと思ったのでは・・・という意見が殺到した。伊藤さんは、自分の居場所とか、自分が必要とされているかを探ろうとしているのだろうか。






「そういえば、その後結婚はどうなったの?」

と、梅垣さんが伊藤さんに聞いたところ、

「うん!着々と進んでるよ!」

と、ニッコリ笑っていたようなのだが、それからわずか半月後。梅垣さんが、昼に仕事に入った時に、私たちクルーに伊藤さんの情報を教えてくれたのだ。

「なんかね、伊藤さんの彼に元カノが連絡してきたらしいよ」

うん・・・?これは、もしかして、私たちが予言した『破局』の前ぶれかな・・・?

「元カノが連絡してきてどうなったの?」

「なんかね、3人で話し合うことになったらしくて、会って、伊藤さん殴られたらしいよ」

「へ?誰に」

「その元カノによ~!それで、もう結婚辞めようかとか悩んでるみたい」

梅垣さんは、伊藤さんの話すことを信じて私たちに話してくれているようだったが、私たちの意見はまた違うものだった。

「元カノ説って本当かな・・・?」

「だよね。元カノじゃなく、その彼が彼女と切れてなくて2股だったとか?」

「それでも、そもそも年上の臭い人に行くかなぁ・・・」

「3人で会うことになったのも、伊藤さんが彼と元カノを見かけたらしいけど、それもどうかな~」

「なんで元カノが伊藤さんを殴るの?」

「それが本当の話だとしたら、彼が元カノと切れてなくて、さらに突然伊藤さんを会わせて『この人と結婚することになりました』とか言ったら、殴られる可能性もあるのかも?」

「え~、どうだろ。私だったら相手の女より、男の方殴るけどな」

などと、人それぞれいろんな分析で考えてみたが、真相はわからなかった。






 しかし、結局は、伊藤さんの口振りからして、元々彼氏もいない状況を、見栄っ張りな性格が邪魔して、隠すために度重なる嘘をついてきたんじゃないか、という結論に達した。頭の中でストーリーを描き、それをあたかも本当の話のように見せかけようと必死だったのではないかと。

 今の時代、別に42歳で独身で彼氏がいなくてもそんなに恥ずかしくないのに、周りのクルーがみんな若くして主婦だったりしたことが、伊藤さんの見栄っ張りに拍車をかけてしまったのかも知れない。そうして、憧れのスポーツジムのインストラクターを彼氏に見立て、結婚秒読みという設定にしておきながら、本当は結婚話なんてないのだから、どうにかして破局に持って行かないと、つじつまが合わない。そこで元カノ説を出して、結婚を辞めたことにすればいいや、とでも考えたのだろう。

 彼氏がいる、という話になった時期に、一度だけ、彼氏が店に来たというのだが、その時もおかしな感じだったのだ。伊藤さんが出勤してきてすぐに、注文口にいる私に

「今ね、彼氏が来てたんです!」

と言うのだが、開店時からよく見る常連さんばかりで、ご新規さんいたかしら?という状況だったし、本当に来ていたなら、なぜ伊藤さんが出勤するまでに帰ってしまうのかもわからない。『皆さんにも挨拶に伺いたい』と彼氏が言っていたらしいのに、お忍びのように来て、さっさと帰る意味がわからない。この頃から、私たちは『彼氏なんていないのにいるように見せかけているのでは』と疑いが強くなったのだ。

 そして、読み通り、結婚は白紙に戻されて、伊藤さんはフリーになったらしい。これも、本当に結婚が秒読みだったのなら元カノがちょっと現れたぐらいで白紙に戻すだろうか・・・?というみんなの意見も納得だったので、やはり全てが【作り話】だったような気がする。






 そして、結婚を辞めたと言っていた伊藤さんが、またすぐにいい人がいるという梅垣さんからの情報。

「今度の人も同じスポーツジムのインストラクターみたいよ」

私たちは、もう話を鵜呑みにしないことにした。そんな次から次へと恋愛に発展するスポーツジムがどこにあるのよ!というツッコミだけ入れておいた。その後は、恒例の女子会でその話題になり、そんなジムがあったらみんなで乗り込んで合コンするがな!と笑い話にもなったのだった。






 そんな中、病んでるマネージャーはこの店を去り、代わりに新入社員の男の子が来ることになった。関ジャニの横山君似の可愛い子らしい。

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