体重よりも・・・。
伊藤さんのニオイの件は、川西店長にも一応相談してみたが、
「ええ~?そんな臭うか~?犬かなんか飼ってるんちゃうん。そんなニオイと思ってた」
と、端から投げやりな答えが返ってきた。久保さんに言わせると
「犬とか飼ってたらそんなニオイさせていいってわけ?それもおかしくない?」
確かに。犬を飼ってるとかの理由だとしても、お客様には全く関係ない情報だから、それが通用するわけがない。それに、まず犬とかペットの臭いではないことぐらい、みんなわかっている。川西店長は、自分がクルーから嫌われたくない傾向が見えていたので、自分の口から『俺がなんとかしたる』とは絶対言わないのだ。よく、前の店ではみんなに慕われていた、とか、今でもLINEで前にいた店舗のクルーの悩み事を聞いてあげている、とか言っているのに、こういう問題には関わってくれないのだ。
そんな中、また一人、お昼のパートさんが増えた。私と同い年の主婦、桑原文さんだ。黒髪のセミロングをキュッと一つに束ね、年相応の爽やかなファッションを着こなす、素敵な人だ。うちの店は、2、3回の仕事ぶりを見たらだいたい続くかどうかわかるのだが、桑原さんはとにかく謝ることが多かった。フレッシュのポジションにいた桑田さんの後ろを通る時に、ほんの少し軽くぶつかっただけで、
「すいません!」
洗い残しのある食器があったので、軽く『これもっかい洗ってもらっていいかな~』と言ったら、
「すいません!」
何回も謝るので『そんなに謝らなくていいよ~』と言ったら
「すいません!・・・あ」
という感じだった。
洗い物に追われて、1枚や2枚、ちゃんと洗えてない食器が出ることもあるし、雑に扱ってるつもりはなくても割れてしまうことだってある。
「だから、そんなに謝ってばかりはやめようね」
「はい」
それからは、少しずつ『すいません!』が減ってきた。そして、桑原さんはきっとすぐに仕事に慣れるだろう。そんな予感がしたのだった。
思った通り、桑原さんはすぐに仕事に慣れて、テキパキと動けるお昼の強い戦力になってきていた。そんな中、歓迎会も兼ねて、いつものお店の女子会を開くことになった。場所はうどん屋の最寄り駅近くの居酒屋だった。今回は、梅垣さんや、伊藤さんは抜きで昼の主力メンバー5人と女子会男子の下谷君の合わせて6人での女子会となった。
最初の話題は、もっぱら『ダイエット』についてだった。やっぱり、【うどん+天ぷら】の組み合わせは最強らしく、ここで働きだしたメンバー全員が体重増加しているのだ。なので、どんなダイエットがいいか、過去の成功話などを話し合って情報交換していた。そこからなぜか、今の体重を暴露する流れになり、それぞれ『今めっちゃ増えて65キロもあるんです』『私は47キロだけど・・・もうちょっと痩せたい』『元々52キロだったのに、58キロまで増えたから慌ててダイエット始めたけどなかなか減らないのよね』とか、順番に言って、桑原さんの番になったのだが、意外な答えが返ってきたのだ。
「あの・・・体重は恥ずかしくて言えないんですが・・・Eカップです」
と、なんとバストのカップ数を暴露してくれたのだ。私としてはそっちの方が『わぁお』なわけだが、人それぞれ恥ずかしく感じることも様々なわけで。とりあえず、桑原さんのカップ数をゲットした女子会だった。
そんなEカップ桑原さんは、とにかく清潔感溢れて爽やかな人なのだ。『身だしなみチェック』を私のところに受けに来ると、私はついつい言ってしまう。
「はい、OKです。今日も爽やかです!」
色白な肌に、真っ白に洗濯されてピシッとアイロンされた制服。まぶしいぐらいに爽やかなのだ。私の中で、どうしても同世代の伊藤さんと比べてしまう。どうして、伊藤さんはそんなにグチャグチャなエプロンをして平気なのか・・・。
ある日、朝から伊藤さんとクルールームで一緒になった日に、私は目撃してしまった。一足先に着替えた私が、バンダナを巻こうと、鏡の前に立った時だった。伊藤さんの着替えているところのカーテンが開いたままになっていて、床に置いたカバンから、制服を取り出すところが鏡越しに映ったのだが・・・なんと、カバンに入れている時点で制服がグチャグチャだったのだ。あの光景は衝撃だった。私の推測では、仕事を終えた伊藤さんが、汗だくになった制服を脱ぎ、適当に丸め、そのままカバンへ入れて帰宅。翌日、そのままの状態のカバンを持って出勤。もちろん洗濯もアイロンも畳み直すことすらしていない。この推測はほぼ断定と言っても過言ではないだろう。そして、このことについて注意したところで改善されないだろうから何も言わなかったが・・・伊藤さんは本当にどこまでズボラなんだろう。
こんなズボラな伊藤さんに、なんと【結婚話】があるというのだ。本人から聞いたわけではなく、全ては伊藤さんをこの店に紹介した梅垣さんからの情報なのだが、私たちはただただビックリだった。