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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
13/25

アイドル女子高生の噂。

 相変わらず、中田店長はアイドル級に可愛らしい林田美奈代さんのことを特別扱いしているようだった。普段は無表情でひたすらマニュアル一筋の中田店長だが、林田さんが仕事に入っている時には、林田さんと時に目を合わせては、ニッコリと微笑むのだった。

「・・・見た?今の」

 そういう場面に出くわしたクルーたちはひそひそと噂話をし始めていた。





 そんなある日、私の耳にも店長と林田さんの噂話が入ってきた。

”あの2人、デートしたらしいわよ”

ええ?まさか・・・と、思ってよくよく聞いたら、どうやら、店長クラスの人が数人と、林田さんとその友達と数人でどこかに出かけたらしいのだ。なんだ。2人きりじゃなくて安心した。が、いくらアイドル級に可愛いからといって、社員がバイトの子誘うって何?明らかに、ただお近づきになりたいだけじゃないの。





 この頃、中田店長の奥さんは妊娠中だった。よくありがちな、『奥さんが妊娠中の浮気』の相手が林田さんなのか?林田さんは、中田店長のことを特に嫌ってはない様子だけど、付き合うとかそういうことはしないんじゃないかなぁ・・・と私は思っていたが、他のクルーさんの中には『ああいう可愛い子に限ってエッチとかもしちゃってたりするのよ』『あの子は顔は可愛いけど強かだよ』『自分が可愛いってわかってるから出来るんだよね』という意見もあった。素直そうに見えても、今時の女子高生。そう考えると、中田店長と本当にそういう関係、ってこともあり得るのかも知れない。噂話ばかりが先行して、全く本当のことはわからない状況だった。





 自分が可愛いとわかっている子は、どうすれば自分がより可愛く見えるかとか、こうすればもっとファンが増えるとか、そういうのを心得ているのだと私は考える。

 林田さんの特徴は、レジのポジションにつくと、釣り銭を渡す時に必ずしっかりとお客様の手を握るのだ。コンビニでもよくある、上と下からギュッと握る、あのやり方だ。

 林田さんのような可愛い顔で、ギュッとされたら、お客様はドキッとするだろう。現に、私の知り合いの男性も、林田さんに手を握られたらしく、

「俺、あの子に手を握られたんやけど・・・俺に気があるんかな」

と、勘違いしていたのだ。このように、すぐに勘違いをするような人、いいように考える人にとって、林田さんの行動はとても誤解を招きやすい。中田店長ももしかしたらただ単に『林田さんは僕のことを気に入ってくれている』と勘違いしてるだけかも知れない。

「もしかしたら、男性にだけそういうことしてるのかな?」

と、林田さんがお客様の手を握る様子を久保さんと一緒に見たことがあった。これがもし、男性客のみ、とか、若い男性のみ、になると、ただの計算でしかないから、私と久保さんはしばらくの間、ちらちらとレジにいる林田さんの様子を見ていた。すると、ほぼ毎回の確立で手をしっかり握っているのがわかった。男性客のみならず、オバサンや子供、必ず全員に。どうやら、計算ではなく、しっかりと釣り銭を渡すために握っているらしい。だが、私の知り合いのように勘違いを起こしてしまうお客様もいるだろうから、林田さんには十分気をつけて欲しいと思う。




 この頃、ベテランパートの山田さんの後に、”ポスト山田”と成り上がった美野川さんが、

「やりたいことがあるので仕事を辞めたいと考えています」

と、言い出した。美野川さんの旦那さんは、うどん屋がある同じ町内で、母親と居酒屋をしている。美野川さんは、お店は手伝わずにうどん屋でパートをしていたのだが、ずっとデザインの仕事をしたかったようなのだ。美野川さんは、まだ20代半ば過ぎ。パートを辞めて、自分のしたい仕事が出来るって素晴らしいことだと思ったから、私たちはみんな応援した。ここに居て、『山田さんに似てきてなんかこわい』と思われているよりは、自分がやりたいことを頑張る方が断然いい。オープンからのメンバーが辞めてしまうのは少し寂しいが、近くにいるのでまた店にも食べに来るだろう。





 そして、同じチェーン店の中で、一番店舗が小さいと思われるこのお店が、なんと売上上位にのし上がって来ていた。お客様がいっぱい来てくれるのはもちろんだが、クルー同士も本当に仲が良く、みんな楽しく仕事をしているからお店の雰囲気もいいのだろうと私は思っていた。

 そんな中、ついにこの日がやってきた。あのバトルの後から、私がひそかに待ち望んでいた、【中田店長の異動】だ。

 バレンタインの日に、中田店長は最後となった。私はいつもはクルーも店長もひっくるめて、全員に向けて【お疲れ様チョコ】をクルールームに設置するのだが、今回は中田店長に個人的にチョコをあげた。『いろいろありましたが、この店に中田店長が来てくれて本当に良かったと思っています』と一言添えて。これは私の本心だった。何もわからないまま、うどん屋にやってきて、城田店長にいびられながら、少しずつ仕事を覚えたものの、次に来た斉藤店長で引っ掻き回され、中田店長にうるさいほどマニュアルマニュアルと言われ・・・そのおかげで、今いるクルーたちがしっかりと成長したと私は思っている。ネチネチとしつこい言い方は嫌いだが、中田店長の仕事ぶりや、仕事に対する情熱を私はとても尊敬している。

 



 さぁ、また新しい店長がやってくる。今度の店長はどんな人なのか、楽しみだ。

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