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うどん屋ホステス。  作者: 桃色 ぴんく。
12/25

店長とバトル!

 中田店長がこの店にやってきて、私は本当にたくさんの事を教わった。

美味しいうどんを提供することはもちろんだが、セルフの店と言っても、注文を聞いてうどんを出せば終わりというわけではないということも教えられた。

【お客様が注文したうどんを受け取って、席について美味しく食べていただいて、満足して帰って行かれるまで】が、私たちの仕事だと。だから、注文を聞いてうどんを出した時点でそのお客様に対して関心をなくしてはならない、と。店内を見渡す余裕があれば、お客様がどんな様子でうどんを食べているか、満足した表情でお店を出て行こうとしているか、しっかりと目で見ること。私は、中田店長のこの教えはもっともだと思ったので、出来るだけお客様を見ることにしたのだ。

 



 こうして、心してお客様を見ることで、いろんなことが見えてきたのだった。例えば、だしマシーンでおだしを入れずに、天つゆのポットをだしと間違えて注いでしまうお客様や、何かを探しているようにキョロキョロするお客様、座敷で水をこぼしてしまってアタフタしているお客様、そういう何かあった時を逸早く見つけて早期解決するのも大事なことなんだとわかったのだ。




 そんな大事なことを教えてくれた中田店長と、私はある日やりあってしまった。

うどんを美味しく湯がくマニュアルについての口論だった。




 その日、私はいつものように朝の仕込みをしていた。そして、美味しいうどんを湯がくために、釜のお湯がボコボコに沸いた状態で麺を入れるため、後数十秒ほど待ってからにしよう、と、先に別の仕込みをしていた。すると、そこへ中田店長がやってきて、釜の火を弱めたのだ。

「えっ、何するんですか」

 思わず口走ってしまう。

「こんなに沸いてたら火を弱めるでしょ。マニュアルに書いてますよ」

「いや、沸いた状態で麺入れないとダメでしょ?今、入れるつもりだったんです」

「沸いたまま放置されてましたよ。だから弱めたんです」

「だからっ!!!さっきまで沸いてなかったから沸くのを待ってたんです!!!」

 そう言いながら、私は釜の火を全開にした。が、火を弱めてから少し時間が経っているのですぐにはボコボコに沸かない。

「ほら、弱めるから麺入れられない。時間見てたのに」

と、私が言った時だった。




「わかったようなこと言うな!!!」

と、中田店長が大きな声で怒鳴ったのだ。

店の掃除をしていたクルーたちもみんなこっちを見た。中田店長が、それほど、声を荒げたことがなかったからだった。

「沸きすぎたら火を弱めるっ・・・マニュアルに書いてるんです!マニュアルに!!!」

あくまでも、マニュアル、マニュアルと言う中田店長。





 私は、自分が間違っているとは思っていなかった。しっかりと沸いた状態で麺を入れるために、そして、営業開始時間に間に合うように麺を入れたかったから、ちゃんと時間を見ていたのだ。実際、中田店長が火を弱めたことで、うどんの湯がき時間が数分遅くなってしまって、開店時間を少し過ぎてからの湯がき上がりとなってしまったのだから。それでも、これ以上言い合っても拉致があかないと判断した私は




「すいませんでした」

と、中田店長に頭を下げたのだった。





 その後、センターポジションについた私に、かずちゃんが小声で言ってきた。

「なんでもフンフンうなづいとったらええねん」

 反抗すると争いになるから店長の言わせたいように言わせとき、というわけだ。中田店長はマニュアルロボットなんだから、そのことをいつも頭に入れておかないと疲れるだけだ。

 でも、なんだか悔しくて少し泣けてきた。何なのよ、マニュアルマニュアルって。火を弱めるのもマニュアルなら、沸いてる状態で麺を入れるのもマニュアルでしょうが。あんな風に怒鳴らなくてもいいじゃない。ムカつくから今日はもう帰ってしまおうか。それでクビになるならなったでいいし・・・と、私はちょっとヤケになっていた。





 帰ろうか、と思っていたけど私は思い出した。そういえば、今日友達がうどん食べに来るって言ってた。ふぅ・・・帰らずに気分を静めよう。そうよ、そう。私が辞めることはないんだ。だって、我慢すれば店長なんていずれ異動になるんだから。そう思えば少し気が楽になった。





 それからの私は、また少しずつ本来の自分らしさを取り戻して、明るく楽しく仕事をしていた。そんな時、店中にある噂が飛び交ったのだった。

”店長と林田さんが付き合っている”と・・・

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