イイ女キター!!!
中田店長がこの店に来てもうすぐ4か月。その頃、ベテランパートの山田さんが、結婚して店を辞めることになった。山田さんは37歳だった。初めて店で会った時に、『付き合っている彼がいます』とは聞いていたけど、ついに結婚が決まったようだ。結婚後はお店も辞めるので、もうヒステリックに振り回されることもなくなるのだ。山田さんに嫌な思いをさせられたクルーたちは、彼女がいなくなることでさぞかし気分が明るくなったことだろう。
が、この頃、すでにもう一人、すごくやりにくいメンバーがいることに私たちは気が付いた。オープンから一緒に働いてきた、美野川さんなのだが、中田店長に代わって以来、ひそかに店長と交信でもしているのか、なんでも店長に話しているらしいのだ。そして、仕事面でも、例えば『私、山田さんと組みたくありません』『私、北村さんも苦手です』というような感じで相談しているらしく、いつの頃からか美野川さんの思い通りにポジションが組まれていたりするのだった。
そして、中田店長に代わってから、また何人かクルーも辞めていったのだった。ネチネチとうるさいマニュアルロボットに疲れ果てて、還暦トリオの一人、高畠さんも辞めていった。フリーターの男の子で森田君という子もいたが、あまりにも長い労働時間で体がボロボロになり、辞めていった。
今いるメンバーといえば、オープンからいる私、久保さん、下谷君、美野川さん、少し遅れて入ってきた林田さん、かずちゃん、磯川さん、トロ子、その後仲間になった藤岡さん、小川さん、磯川くん、梅垣さん・・・10人ほどまで人数が減っていた。年中無休で、朝の11時~夜の22時まで店は開きっぱなしなので、朝の仕込み~昼すぎ、昼~夕方、夕方~ラストというような体制でシフトが組まれていたのでこの人数で交代でやるにはかなりきつかった。
もちろん、随時パート・アルバイトを募集しているので、時々は面接に来る人もいたが、どの人もイマイチしっくり来なかった。人手不足からあまり期待出来ないけどとりあえず採用された人などもいるが、そんな人は、やはり2,3回で合わなくて辞めてしまったり、採用通知をしてすぐに『やっぱり辞退します』などと言う人もいたりで、本当になかなかいい人に巡り合えなかったのだ。
そんなある日のこと。また、一人面接の予定が入った。ちらっと聞いた噂では、20代後半の主婦らしい。ちょうど欲しい年代だと私は期待していた。あまり高齢でも仕事的にきついし、高校生とか学生は平日の昼間には入れないし、やはり欲しいのは20代~40代の主婦だと思っていたから、面接時間が待ち遠しくて、時計を何回も見ながら私は仕込みをしていた。
そして、その人がやってきた。
「すいません、面接にお伺いした平塚という者ですが・・・」
私は、ドッキーン!となったのだった。美人だ!しかも、見ただけでわかる。仕事をテキパキこなしそうな印象があった。
この店のメンバーは、みんな美男美女揃いなのだ。私は化粧でごまかしている美人なのだが、久保さんはクールな感じの美人だし、美野川さんはすっきりとした美人だし、林田さんはアイドル級の可愛さだし、藤岡さんはエキゾチック美人、小川さんは愛くるしい感じの可愛さ、トロ子は少し影がある美人、かずちゃんや、磯川さん、梅垣さんなどは少し年齢は高いが、みんな『若い頃めっちゃ美人だったんでしょ!』という美人だ。男の子も下谷くんは美野川さんに『ジュノンボーイみたい』と言われるほどの美形で、磯川君もジャニーズに入れそうな勢いの可愛らしさがあった。なので、この店は『顔で決めてるんかい』と思ったぐらい、みんな素敵な人ばかりなのだ。
今まで、人手不足で募集して、数回面接が行われたのを見てきたけど、この店にふさわしい人材がなかなかいなかったのだ。せっかく、30代の主婦でも身だしなみが汚らしかったり、面接なのに草履で来たり。その点、一目見ただけで平塚さんは違った!輝いている・・・平塚さんが面接を終えて帰って行く姿を見て、ああいう人が店に来てくれたらなぁ・・・と思っていたのだった。
数日後、採用された平塚さんがやってきた。やはり、採用だよね。今まで面接に来た人の中で本当にドンピシャだったもの。色白で、イメージ的には着物が似合う、銀座のママさんになれそうな、少し姉御肌の美人だ。まだ、仕事を始める前だったが、面接で姿を見かけた時から私には感じるものがあった。この子は【持っている】。絶対、いいうどん屋ホステスになれる、と。
本人から聞いたのだが、平塚さんは、以前はスナックで働いてたそうだ。なるほど、それを聞いて納得した。新人ながら、妙にお客様の扱いに慣れていたからだ。そして細やかな心配りもきちんと出来ている。着物が似合う銀座のママになれそうだ、と感じた私のカンも間違いではなかった。
こうして、うちのお店にまた一人、強力な美人が加わった。常連のお客様も定着しつつありそうだったが、彼女が来てくれたことでまた新たなお客様も増えそうだ。
気軽に入れるセルフのうどん屋ということで、お客様も本当にいろんな人が来る。私は仕事の作業に慣れてきた頃から、ずっとお客様ウォッチングをしながら働いているのだ。