フィリップ
アデルが帰って来ると、エリザベスとエミールが待っていた。
「お疲れ様でした…。」
「ああ…。」
まだ、エリザベスに対して、ギクシャクしているアデルを、エミールが神殿の方から手招きした。
「アデル。ハッセルがフィリップの魂を黄泉の国から天国へと送ってくれるそうじゃ。ここへ来い。リズもな。」
アデルとエリザベスが行くと、ハッセルが2人をエミールの隣の椅子に腰掛けさせた。
アデルは不安そうにハッセルを見ている。
「アデル様、如何なされた。」
「そなたの祖父、エドワード最高聖魔導士は、曽祖母様をお救いする為、命を落としたと聞いた…。大丈夫なのか…。そんな事をしてもらっても…。」
ハッセルは優しい笑みを浮かべた。
「有難う御座います。しかし、ご心配には及びません。
曽祖母クレア様は、お身体と魂が一緒に、黄泉の国に隠されておられたので、日数が経っても、お身体がそのままでしたが、残念ながら、フィリップ様が隠されたのは、魂のみ。
お身体はこの世で埋葬され、腐敗が進行しております。
生き返らせる事が出来ない以上、私はフィリップ様が行くべき所へ行かれるのを、お手伝いするだけ。私に負担はございません。」
「本当か?」
「はい。」
「ーならば、頼む。」
「では…。」
ハッセルは、聞き取れない程の小さな声で、呪文を唱え始めた。
不安そうに震えるエリザベスの手を、アデルが握り、2人は手を取り合って、固唾を飲んで、待っていた。
暫くして、神殿の真下に向かって、神々しい光が射し始め、その光が、徐々に神殿の床に形作られ始めた。
そして、その光は、フィリップになった。
「フィリップ!」
エリザベスが悲鳴にも似た声で呼び、アデルと共に駆け寄った。
フィリップは笑っていた。
「父上、母上。お二人の子供に生まれて、本当に幸せでした。またここに生まれて来てもいいですか。」
エリザベスは、感極まって号泣し、言葉にならず、ただ頷いている。
アデルも涙をこぼしながらも、フィリップに笑いかけた。
「勿論だ。フィリップ。また生まれて来てくれるのを待っている。」
「はい。」
「必ずだ!必ずだぞ!?フィリップ!」
「はい!父上!」
フィリップは元気良く返事をし、天から光と共に降りて来た天使に連れられ、空高く昇って行った。
フィリップを見送った後、アデルはエリザベスの涙を拭ってやりながら、真剣に言った。
「1人で辛い思いをさせて済まなかった…。これからは、何が起きても、絶対に逃げない。許してくれるか…。」
エリザベスはアデルを見つめ、微笑んだ。
「はい…。勿論ですわ…。私の方こそ、あなたから遠ざかってしまって、ごめんなさい…。」
いい雰囲気の所にエミールが立ち上がった。
また余計な事を言うのは分かりきっている。
ハッセルが止めに入ろうとしたが、遅かった。
「よし!ではまたフィリップが生まれる様に、今直ぐ子作りに励むが良い!」
当然、眉間に深い皺を刻みつつ、怒鳴るアデル。
「父上!どうしてそういう下品な事を仰るのだ!」
「何が下品だあ!それでそなたはこの世に生まれて来れたのじゃぞ!」
「いい加減にして下さい!」
「何を言…。」
言葉の途中で、エミールがバタンと突っ伏す様に倒れた。
「きゃああー!義父上様あああー!?」
「父上!?」
ハッセルがニヤリと笑って、唇の前で指を一本立てた。
「少しお休み頂きましょう。」
アデルは苦笑してハッセルを見た。
「ハッセル。相変わらず、やる事が強烈だな。父上は一応主君ではないのか。」
「主君であり、友でございます。間違った行いや、恥さらしな言動を止めるのも、友の務め。」
アデルが笑い出し、みんなで笑って、天を仰いだ。
「待っていますよ、フィリップ…。」
アデルはエリザベスの肩を抱き、久しぶりに寛いだ様子で笑った。




