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呪いの島  作者: 桐生初
12/18

アレキサンダー王の大剣

報告書は、アデルの記憶通り、2年前のものだった。


斥候が行った折、祭りが催されていたと書かれてある。

探りを入れてみた所、祭りは復活祭と銘打ち、大蛇の復活を祝うものだった。

今にこの島は世界の中心になると、キマイラ人と見られる黒魔道士が演説をぶっていたそうだ。


王の名前は、ジュノーといい、年は28歳。生れながらの最高上位の黒魔道士と言われていたらしい。

姿は確認出来なかったが、国民に聞いた所、出来ないことは無いと言われるほどで、封印されし闇魔法も自在に操り、復活した大蛇と話せるのは、王のジュノーのみという事だった。


元から居たウロボロス国民は、かなり居心地悪そうに暮らしており、流入したキマイラ人の黒魔道士達の方が、大きな顔をして歩いていたらしい。

それは何故かといえば、どうも、王のジュノーは、キマイラ人らしいのだ。


斥候が更に調べた所、キマイラ国の国王は、ジュノーの臣下に下っており、王不在のウロボロスに入ってからは、キマイラ人のジュノーが王になったらしい。


元から居たウロボロス国民の話では、キマイラ人は、5年前、キマイラ前国王が死んだ直後、大挙してウロボロスに入って来て、誰も居ない王宮にジュノーやキマイラ国王が入り、ある日突然、ウロボロスを豊かにするために来たと宣言したらしい。


指導者を失い、ただでさえ貧しく苦しい生活を送っていたウロボロス国民は、訝しみながらも、黒魔道士が稼いでくる外貨というものに心奪われ、それで良しとしてしまったが、気が付けば、魔導士達に住処を奪われ、虐げられる様になって行き、斥候が潜り込んだときは既に、奴隷のような生活を強いられていたという。



「アデル!」


またエミールが怒鳴った。


「今度はなんですか!」


「ウロボロスの民が犠牲になっておるのが分かっておるのに、何故助けぬか!」


「父上があそことは関わるなと仰せになったのではありませんか!」


「どこの国民であろうと、他国に侵略を受けておるのを助けず、何が竜国の国主かあ!」


「仰ってる事がめちゃくちゃではありませんか!」


「言いつけも守らず斥候など行かせて、調べさせたくせに、都合のいい時だけ言いつけを守った様な顔をするなあ!」


2人の言い合いなど気にも止めず、彦三郎がアレックスに言った。


「アの字、つまり、ジュノーと申す悪い魔法使いも生まれ変わったということであろうか。」


「ーそうだな。2年前で28歳という事は、今、30歳。父上と母上がウロボロスに行かれたのが、30年前で、その時、大蛇は岩の下で息を吹き返していた。という事は、アンソニー、ジュノーの生まれ変わりが出た事で、大蛇が息を吹き返したという事か?」


「かと思われます。そして、ジュノーが話している、復活祭が催されたという事は、恐らく…。」


「大蛇は岩から出て来ているということだな。」


アレックスは、アデルと顔を見合わせた。


「向こうの出方を待っているより、こちらから攻め入った方が良さそうですね。大蛇に上陸された方が、犠牲も多いし、やりづらくなるかもしれません。」


「そうだな。俺もそう思ったが、どう攻める?」


アレックスが答える前に、アンソニーが手を挙げて、アデルを見て言った。


「ちょっと宜しいですか。」


「なんだ。」


「父が申していたのですが、エミール様が行かれて、異常を察知された後、ウロボロス島の四方の海に聖石を埋めて、結界を張って置いたのだそうです。ですから、大蛇は復活を果たしても出てこないのかもしれません。

ですから、その結界を強め、闇魔導士、ジュノー、大蛇をウロボロスから出さず、中で始末をつけられてはいかがでしょうか。今の結界の質と強さですと、大蛇だけが出て来られないだけですが、世界中の聖魔導士を集めて、結界を強めれば、多少は中の闇の力も弱まり、黒魔道士や闇魔導士も出られなくなるのではないかと。」


「なるほど。決戦はウロボロス城だな。早い方がいいだろう。世界中の聖魔導士はどれくらいで集まる?」


「1日あれば、集まってくれるかと思います。」


大体の作戦が決まった所で、エミールはニヤリと笑った。


「では、アレックス。アレキサンダー王の大剣を借りて来なければな。」


アレックスは苦笑しながら頷いた。


「あるのですか。」


驚き顔で聞くアデルに頷いて答える。


「ん。しかし、我が父は外敵や盗賊に取られまいとするあまり、身内で使う者が出るとは考えなかったようじゃ。相当な仕掛けをハッセルの親父に作らせた。」


「アレックス1人では…。私も行きます。」


「いや、駄目じゃ。というか、行っても無駄じゃ。1人入ったら、扉は閉まるように出来ておるらしい。それだけは聞いた事がある。」


「どこにあるんですか、それは。」


「アレキサンダー王の墓所じゃ。」



そう聞いても心配そうについて来たアデルやダリル達に笑顔で手を振り、アレックスは石の大きな扉の前に立った。


そして固まるアレックス。


ーパズルかよ。


1から8までの正方形の小さなブロックが縦3つ、横3つと2つの合計8つランダムに配置され、取り外すのではなく、動かして1から順に並べろという事らしい。


しかし、これは見覚えがある。

エミールがしょっちゅうアレックスにやらせていた木のおもちゃのパズルと同じ物だ。


エミールはこれを予期していたのだろうか。


難なく開けると、扉は重い音を立てて開いたが、開いた瞬間から猛烈なスピードで閉じ始め、アレックス1人が漸く滑り込む感じだった。

当然の事ながら、中は真っ暗。

目が慣れるのを待ち、足元を確認しながら歩き始めて直ぐ、世にも美しい女が、妖しい微笑を浮かべて現れた。

身も心も蕩けそうな芳しい香りを放ちながら、ハープの様な美しい声で耳に囁いた。


「アレキサンダー王の大剣のある所までご案内致しますわ。」


アレックスは全く動揺もせず、答えた。


「いや、結構だ。」


エミール同様ドスケベかはともかく、妻一筋は変わらないし、そもそも、アレックスは素晴らしい美人というのは、あまり好みではない。

マリアンヌの様な可愛いタイプが好みなので、たとえ独身だったとしても、全くなびかなかったろう。


それに、冷静に考えたら、こんな密閉された墓場に、ここまで小綺麗な女が待ち構えている事自体、罠感満載である。


しかし、女はしつこい。

アレックスの腕に手を回し、誘惑する様に身体をぴたりとくっ付けて、悩ましく手を握る。


「こちらの道の方が楽につきますわよ?さあ。」


アレックスは迷惑そうに女の手を、空いている方の手で掴んで離した。


「いや、結構だ。自分の力で行く。」


普通の男なら、多分ここでもう引っかかってしまうのかもしれないが、アレックスには色仕掛けは通じない。

マリアンヌが居るから云々というより、昔から通用しない。

別に女に興味が無い聖人な訳ではないのだが、こんな稼業をやっていると、男でも女でも、寄って来る奴には、裏があると思った方が無難であるし、そもそも色仕掛けにかかるほど、女に困ってもいなかったし。


という訳で、アレックスがあまりになびかないので、女は突然怒り出し、今度は羽の付いたドラゴンになって、火を吹こうとした。


「ああ、もう。面倒な奴だな。お前は幻か、強いてどうしても生きてるというのなら、魔物だろう。俺は先を急いでるんだ。いいからそこを通せ。」


すると女ドラゴンは消えた。

正体を見破られると消えるらしい。


ーなんだ、大した事ないな。


女ドラゴンが誘いこもうとした横道をみると、奥の方から、何やら音がする。

ゴロゴロゴロゴロ…


ーゴロゴロ?


これはまずいんじゃないかと思った時には、アレックスの目の前には、轢かれても、当たっても、ひとたまりもないアレックスの背丈の2倍はあろうかという大きさの重そうな玉が、猛スピードで転がって来た。大剣では切れそうにないので、アレックスはその玉に飛び乗ってしまい、天井から伸びている蔦の様なものを掴んだ。


ガチャという音がする。


ーあ、やってしまったか?


やってしまったようで、玉が去って、床に降りたら、今度は矢が雨の様に降ってきた。

大剣で全て跳ね飛ばし、やれやれと思う間も無く、今度は床の石が波打って崩れ始めた。

大股で走り抜けたが、踏んだ床踏んだ床が崩れ落ちて行き、次の部屋に入った時には、来た道は無くなっており、底も見えない真っ暗な闇の廊下になっていた。


ーどうやって帰りゃいいんだ?


とは思ったが、ここまで来たら仕方がない。

次へ行こうとするが、悩む。

行き着いた、丸いその部屋には扉は3つ。

どれか選んで開けない限りは、次へは進めない。


取り敢えず、一番近くの、左側のドアを開ける。


バッシャーン!と景気良く、鉄砲水の様な勢いで水が出て来た。

真正面からかぶったアレックスはびしょ濡れになりながら、扉の向こう側を見たが、そこは岩の壁で、外れな様だ。


その隣の真ん中のドアを開けてみる。

今度は立って居られない程の強風が吹いて来た。

倒れたら負けとばかりに、足を前後に開いて、必死に立ち続け、吹き終わった扉の向こうは、やはり壁。


今度は正解だろうと最後の扉を勢い良く開けると、吹雪が吹いて来た。

その強さたるや、さっきの鉄砲水と強風を合わせた様な感じ。

しかも、雪というより、霙だ。

当然痛い。

アレックスは、殆どやけになりながら、マントで顔を覆い、やはり必死に耐えて立ち続けた。

しかし、その扉も壁。


ー全部外れか?


アレックスが途方に暮れる暇も無く、今度は、背後で床がせり上がって来た。

せり上がってきた床は、3つの扉の真ん前だけを残し、ゴゴゴと音を立ててせり上がって来る。


アレックスは、扉の真ん前に立っていたので、平気だったが、倒れていたり、逃げ惑っていたり、逆に三つの内、どの扉でも避けていたりしたら、せり上がってきた巨大な岩と床の間に挟まれて死んでいただろう。


計算はされているが、なんだか人をおちょくっている仕掛けだ。

アレックスは思わず全部を真正面から受けてしまったが、大抵は避けたり、逃げたりするものだろう。

何故、まともに受けた者だけが助かる仕組みなのだろうか。


ーアンソニーの爺さんて、随分変わった人だな…。


大体、魔法で作ったと思われるのは、最初の女だけだ。

あとは全部、カラクリ仕掛けで出来ている。

そう言えば、アンソニーの祖父だけは、最高聖魔導士にはなれなかったそうだ。

魔法より、カラクリを作る方が好きだったのかもしれない。


せり上がって来た床は、竜国の神殿の様な形で、丸いドーム状になって、柱が4本立っていた。

どうも、そこに入るしかなさそうなので、入ると、いきなり急降下し始めた。


ーうわあ、なんなんだ、もう!


どんどんおちょくられているとしか思えなくなってくる。

アレックスは、大剣を床に刺し、それに捕まって耐えた。


ドシンと乱暴にその神殿モドキが着地した場所は、地下神殿の様な、真っ白な石で作られた、厳かな場所だった。


その奥まった、祭壇の様な場所に、棺があった。


近付いて見ると、上にアレックスの大剣と同じ、竜国の紋章が入った、緑青が出ている、銅製の大剣が置いてあった。


アレックスは、その前に膝まづき、胸に手を当て、敬意を払い、頭を下げた。


「私はアレキサンダー・ラディエント・ドラゴン。あなたの曾孫にあたる者。あなたが退治したウロボロスの大蛇と、ジュノーが蘇り、再び大陸を襲おうとしています。どうか、その大蛇を斬れる唯一の大剣を私にお貸し下さい。」


アレックスは、そのまま頭を下げたまま、膝まづいていた。

何故か、返事が来る様な気がしたのだ。


返事を待つ間、部屋の右側の箱から、金に宝石が散りばめられた、見るからに高価そうな大剣が滑って来た。


ーまた惑わし系か…。


エミールは、祖父王が盗賊を恐れて作らせたという様な事を言っていたから、万が一、盗賊がここまで辿り着いてしまっても、本物を持って行かれるよりは、高価な剣を持って行かれた方がマシと思ったのかもしれない。


アレックスは、金の大剣を押しやり、再び、答えを待った。

今度は、逆側に置いてある箱から、銀に宝石が散りばめられた大剣が滑ってきたが、やはりアレックスは、押しやった。


暫くそのまま待っていると、頭の中に響く様に、男性の低い声がし始めた。


「我が子孫、そして、私の生まれ変わり、アレキサンダーよ。そなたが本当に、私の生まれ変わりならば、この剣は持てる。しかし、そうでないのであれば、持った手が焼け焦げてしまうだろう。さあ、どうする。」


アレックスに恐れは全く無かった。

それより、来た廊下は崩れ落ちている。

どうやって帰ればいいのかの方が気になった。


アレックスは一礼した後、アレキサンダー王の大剣を取った。


その瞬間、剣も鞘も覆っていた緑青がパリンと割れる様に剥がれ落ち、光り輝いた。


「持って行くがよい。アレキサンダー。そして大陸を救え。」


アレックスは深々と棺に向かって頭を下げた。


すると、扉など無かった筈の部屋の壁の一部が、引き戸の様に開いた。

その先に光が見え、道は上り坂になっていた。

進んでいくと、光は4つあった。

赤っぽい暖かい灯だった。

出た所に、アデル、アンソニー、ダリルに、彦三郎まで、各々カンテラを持って、アレックスの帰りを入った扉の方を見て待っていた。


出口は、入り口の脇にあった様だ。


「ただいま帰りました。」


「無事だったか!アレックス!」


「アレックス様あ!流石でございます!」


「アの字ー!ようやったのお!」


アレックスは笑った後、笑った顔のまま、殺気だった目で、ほっとして泣いているアンソニーを見つめた。


「ーは…。な、何か…。」


「ーアンソニー…。お前の爺さんは遊びが過ぎるのではないのか…。」


「はっ!?あ、あの、魔法だらけだったのではないのですか!?」


「魔法なんか一個だけだあ!見ろ!ずぶ濡れだ!」


「えええー!?どういう事ですか!?も、申し訳ありません!」


アレックスが今にも大剣を抜きそうに怒っているので、思わず謝っていると、エミールが歩いて来た。


「どうであった、アレックス。仕掛け満載であったろう?」


「はい!」


大きな返事に、縮み上がるアンソニー。


「ハッセルの親父は、魔法の筋は悪かったが、カラクリが得意だったからのう。で、アレキサンダー王とは話せたか。」


「ーあの頭の中に響いてきた声がそうなら、お話しできたかと思います。」


「ふむ。どの様な声であった?」


「低くて、耳触りの良いお声でした。」


「お主の声に似ていたであろう?」


「俺はあんないい声でしょうか。」


「左様。ならば間違いない。ワシが幼い時に聞いたアレキサンダー王の声。夢のお告げの声。共にお主そっくりの低くて耳触りの良い、いいお声であったわ。」


「魔法でしょうか。」


「いや、違うな。お主だから、お声が聞こえたのであろう。よし。これで準備は整った。後は、聖魔導士の方の準備が整えば、出陣出来るな。」


アンソニーが、胸に手を当て頭を下げた。


「お任せを。」


「ん。では、心配し過ぎて怒っていそうなリチャードに手紙を書くとしよう。」










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