表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪いの島  作者: 桐生初
10/18

アデルの真実

獅子国では、領土内で暴徒が暴れ、町を荒らしているという報が入った。


「リチャード様を誘き出す罠でございますな。兵と聖魔導士を行かされよ。」


と言うハッセルの忠告を受け、そうした所、闇魔法に操られた者たちの仕業で、王が来たら囲んで殺せと、ずっと頭の中を巡っていたという。


「搦め手で来おったな。アレックス、十二分に気をつけるのだぞ?」


リチャードに念を押され、アレックスは頷くしかない。




その頃、竜国のアデルは、1人で城のすぐ側の暗い森の中に居た。


何をするわけでも無い。

ただぼんやり1人になる。

最近の習慣だった。

フィリップを失ってから、政務が終わると、夕食の時間までそうする事が多くなった。


エリザベスの事は気にかかる。

恐らく、フィリップの死は自分のせいと責めている事だろう。

しかし、側に居て、エリザベスのせいではないと励ますのが、アデルの役目と分かっていても出来なかった。


エリザベスを責める気持ちは無い。

だが、エリザベスの目を見ると、フィリップを思い出してしまう。

フィリップの目がエリザベスそっくりだったから。

エリザベスの悲しげな目を見ると、亡くなったフィリップがあの世で泣いている様に思え、辛くて堪らず、エリザベスに近付けなくなってしまった。


アデルは、プライベートな事全てから逃げていた。


そのアデルの前に、本当に何処からともなく、黒ずくめの魔導士が現れた。


死臭がする。


そんな力は無いアデルでも、闇魔導士と分かった。


「お前か!フィリップを殺したのは!」


「私ではありません。しかし、フィリップ様を蘇らせる事は出来ます。」


剣を構えるアデルに、闇魔導士は、卑屈な笑みを浮かべながら続けた。


「弟君のアレックス様とその奥方のマリアンヌ様のお力添えがあれば、すぐにでも。」


冷静に考えれば、この魔導士の言っている事はおかしい。

闇魔法とアレックス達は結びつかない。

アレックス夫婦は、魔導士では無いが、聖なる大鷹に主と認められた、聖なるものに極めて近い人間であり、闇魔導士とは、到底相入れない。


アレックス達を殺そうとしているとしか考えられない。

アデルは、フィリップが蘇るという魔導士の言葉に心を揺さぶられながら、努めて冷静に考えようとした。


「2人を生け贄にでもするつもりか。」


「そんな所でございます。でも、フィリップ様は蘇りますよ?我が子と好き勝手に生きている弟君、どちらがお大切なのですか。」


アデルは、剣を落とし、頭を抱えた。


アレックスが純粋に好き勝手に生きているわけでない事位、アデルも分かっていた。

自分が王としてやりやすい様にする為に、城を出た事も。

13年も前の、アデルは気にもしていない事を未だに気にし、律儀に恩義を感じている事も。


しかし、今のアデルは、フィリップの居ない空漠が埋まるなら、地獄に落ちても構わないと思う程辛かった。


アレックスを愛していないわけでは無い。

寧ろ、肉親の中では1番愛している。

段々何を考えれば良いのかも分からなくなってきたアデルは…、


ー息子を取り戻すという誘惑に負けてしまった…。




その日の夜、竜国からアレックスの元に手紙が届いた。


「アデル様からでございますか。」


ダリルが怪訝な顔で聞いた。


「ああ。姉上の見舞いに、夫婦で来てくれないかと書いてある。」


「これも罠でしょう!な!?アンソニー!」


同意を求められたアンソニーも、深刻な顔で頷いた。


「はい。お行き召さるな。」


「いや。マリーは置いて行くが、俺は行く。」


2人同時に血相を変えて叫ぶ。


「アレックス様!」


「兄上が闇魔導士に誑かされているならば、正気に戻し、現実を見させないと。何れにせよ、アレキサンダー王の剣もお借りしに行かねばならん。」


「なりません!ならば、私達も!」


身体を張って止めそうな2人に加え、さっき到着した彦三郎も言った。


「俺も行くぞ。」


「駄目だ。1人で行く。来たら真っ二つだ。いいな?」




アレックスはそのまま、全員の目を盗んで、ほんのちょっとした隙にイリイに乗って行ってしまった。


それを聞いた全員が青くなったが、1人エミールだけは、平然としていた。


「エミール!お前はアレックスの事は、目に入れても痛くない程可愛がっていたではないか!心配ではないのか!」


リチャードが食って掛かる様に言うが、やはり変わらない。


「まあ心配は心配じゃが。ああ見えてアデルは情に厚いのじゃよ。」


「ー即座に納得出来んのだが。」


「分かるまいて。捻くれておるからの。」


「どういう事なのだ、エミール。」


「アデルは、身の回りの人間、全てを愛し、そして、拠り所としてしまう。だから死んだりすると、死も受け入れられなければ、立ち直れもせん。エリーゼが死んだ時もそうじゃった。認めない、認めないと大騒ぎじゃ。10歳のアレックスの方が、余程落ち着いておった位。だから、冷徹を貫き、死ぬかもしれない兵や騎士とは親睦を深めん。死なれた時が辛いからな。弱いんじゃな。」


「ーお前がアデルは器に非ずと言ったのがよく分かるが、それにしても、詳細は分からぬが、アレックスを売ったという事であろう?」


「アレックスなら正気に戻す。それに、あの兄弟は、ああ見えて、深い絆で結ばれておる。」


「どういうことだ。」


「うーん…。昔な…。」




今から13年前、アレックス6歳、アデル11歳の時だった。


アデルは、アレックスを連れて、城内の森の中で遊んでいた。

アレックスには、妖精が見えた。

それをアデルに教えてくれていた。

アデルは1人でいると見えなかったが、アレックスと居ると見えた。

小さな緑色の羽の付いた可愛い妖精を2人でそっと眺めていると、突然妖精が慌てふためいて消えた。


「どうしたんだろうな。」


ただ単に不思議そうなアデルに、アレックスは顔色を変えて言った。


「兄上、何か来ます。」


「何かとはなん …。」


アデルは言い終えないうちに、その何かの姿を見て、言葉を失った。


それは二本足で立っていた。

だが、頭は人間では無かった。

鼻に角の様な物が生えた、サイのような頭に、全身毛むくじゃら。

手足はとても大きく、爪は鋭利な刃のようで、全身から腐臭が立ち込めていた。


その人間だかなんだか分からない化け物は、アレックスを見ると、爪を立て、牙を剥き、襲いかかって来た。


「アレックス!逃げろ!」


アデルはアレックスを逃がそうとしたが、その化け物の足は早く、アデルには見向きもせず、あっと言う間にアレックスに追い付いてしまう。

アデルは、必死に剣で斬りかかったが、11歳のアデルに敵うはずはなく、剣は折られ、アデルは振り払われた。


「兄上!」


助けに来ようとするアレックスに、アデルは叫んだ。


「俺の事はいい!早く逃げろ!」


しかし、アレックスは追い付かれてしまう。

一緒に追い掛けたアデルは、化け物がアレックスの喉笛を噛みちぎろうとした寸での所で、アレックスを抱きかかえた。


化け物は、邪魔だとでも言いたげに、アデルの肩を鋭い爪で掴み、アレックスから離そうとした。

爪が肉に食い込み、肩から血が流れたが、それでも、アデルはアレックスを抱え込み、離さなかった。


いきり立った化け物は、自分に背を向け、アレックスの急所を出さないように抱えているアデルの首に噛み付いた。


血が吹き出す。

意識が’遠のく。


それでもアデルはアレックスを離さなかった。


「兄上!兄上!」


小さいアレックスが泣き叫ぶのも遠くに聞こえ、死を覚悟した時、ドサッという大きな音と共に、エミールの声が聞こえた。


「アデル!しっかり致せ!」


目を開けると、エミールに抱きかかえられていた。


泣きながら、アデルを心配しきりで見つめているアレックスの後ろに、あの化け物が真っ二つになって倒れているのが見える。


「父上…、あれはなんですか…。」


「元人間のようじゃ。ほれ、死んだら、人間になって来おった。」


エミールはアデルを抱き上げ、アレックスと一緒にエディに乗せた。


「よくやったのう、アデル。名誉の負傷じゃ。」


エミールに褒められ、照れ臭くなって笑った後、気を失った。


化け物の正体は結局分からずじまいだったが、その後、キマイラの黒魔道のおかしな生物の襲撃を受けた事で、それも、キマイラだろうという結論に達したのだった。




「アデルは瀕死の重傷だった。でもまあ、どうにか生き延びた。首に大きな傷は出来てしもうたがな。」


マリアンヌが深刻な顔で頷いた。


「それがあの傷…。だから、アレックスは、お兄様に恩を感じて、こんなに立てるのですね。」


「左様。アデルの方は気にしてもないのだが、アレックスは未だに、自分の生あるは、アデルのお陰と思うておる。そしてアデルもまた、損得関係無く、アレックスを大事に思う気持ちは変わっておらん。今はトチ狂っておるが、正気に戻れば、アレックスを命を懸けて守るであろう。とはいえ、相手が相手じゃ。ダリル、頃合いを見て行くがよい。」


「承知致しました。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ