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07.『初依頼』



「ーーー……自分で選んでおいてアレだけど、今すぐに帰りたい気分だわ」


「……いや、まぁ気持ちは解るけど」



 二人の眼前に蠢く魔獣。

 数は多くはない、精々五匹か六匹程度だろう。

 冒険者ギルドにて登録を終えたその後、早速初めての依頼を受諾した。

 依頼内容は街からそれ程離れていない草原での魔獣の討伐。

 一匹の討伐に付き銅貨二枚の報酬金が出るらしい。

 街を出る前に確認した宿屋の料金が一泊一部屋二食付きで銅貨四枚なのを考えれば、中々の報酬金だろう。


ーーーーが、しかし。




「正直近寄りたくないわ………。気色悪い魔獣も居たものね」



 それには夕真も同意だった。

 今回の依頼はスライムトードと呼ばれる魔獣の討伐だが、そのスライムトードこそが二人にとって問題だった。


 平たい顔に半眼の瞳。

 二メートルを越える巨躯は薄緑色をしている。

 正しく名の通り蛙の姿そのままだが、その巨躯は別にして普通の蛙と違う点があった。

 スライムトードの躰のいたる所から無数の触手が延び蠢いているのだ。

 触手は蠢く度にその形を変えグネグネと伸縮している。


 その薄気味悪い光景に夕真とセシリアは強い拒否感を覚えた。



「……請けた以上やるしかないか。違約金もだけど依頼達成しないと今夜は野宿だしな」

「解ってるわよ。久しぶりに温かいベッドで寝たいからね」


「俺もだ。さっさと片付けよう」


「勿論よ。ーーーー『氷結グラシエス・サギタ』」



 開戦の一撃はセシリアの魔法によって狼煙を上げた。

 細長い氷が一匹のスライムトードを貫く。

 その瞬間、他のスライムトードが一斉に此方を見た。

 数は残り五匹。

 どうやらこちらに気付いたようだ。

 ウネウネと蠢く触手が不気味だ。

 スライムトードはこちらを敵と認識した、ならば成すべきことは決まっている。


 右手に魔力を籠める。

 不思議な感覚だ。

 身体の最奥から溢れるように湧き出す魔力が循環するように体内を巡り、右の掌に集約する。

 熱いようで冷たい。

 冷たいようで熱い。


 イメージするのは拳大の円球。


 それだけで魔法は完成する。

 ふわり、と掌の上で浮く円球は僅かに燐光を帯びて漂う。

 魔力の塊。

 魔法を使う上で基礎の基礎、属性の付加もなく唯々膨大な魔力を注ぎ込んだだけの最低位魔法。


 それが魔力砲だ。


 通常この規模の魔法を使う場合、例えば火系魔法『ファイアボール』を行使する魔力を一とするなら、同規模で魔力砲を行使するのに必要な魔力は十。

 単純に考えて十倍の魔力消費だ。

 非常に使い勝手の悪い魔法だが、生憎夕真に他の選択肢は存在しない。



「ーーーー行け」



 放たれた魔力砲は夕真の狙いを違えずにスライムトードを直撃した。

 スライムトードの薄緑色の体表から赤い血液が流れ落ちるが、セシリアのように一撃で仕留める迄には至らない。

 舌打ち。

 それでも続けざまに二撃三撃と攻撃を加えてようやくスライムトードは地面へと崩れ落ちた。


 ーーーーこれで計二匹、銅貨四枚。


 日本円に換算すれば四千円。

 街かの移動時間も入れて一時間ぐらいだろうか。

 時給四千円と考えれば悪くないどころか、割のいい仕事だ。

 案外冒険者は儲かるものだ、と夕真が考え始めた頃。



「ゆ、ユーマッ!」



 突然セシリアが声を荒げた。

 何事かとセシリアの見ている方向、スライムトードを凝視してみれば薄緑色の躰から伸びた無数の触手が此方へと殺到するように向かってきている。

 二人とスライムトードの距離は大凡四十メートル。

 近付かず遠距離からの魔法で殲滅するつもりだった夕真とセシリアにとって、触手での攻撃など考えもしなかった手段だ。

 そして想定外なことがもう一つ。



「ちょ、ぇ、何でっ?」



 セシリアの戸惑った声に、夕真も気付く。

 此方へと伸びる触手はその全てがセシリアへと向かっていた。



「ちょ、嘘でしょ!ーーー『氷結グラシエス・サギタ』『氷結グラシエス・サギタ』ッ!」



 二筋の白き軌跡が何本かの触手を打ち払うが、数が数だ。

 その触手の全てを打ち払うには到底及ばない。


 無数の触手が自分へと殺到している。


 最早悪夢と云っていい。




「セシリアッ、逃げるぞ!」



 瞬間。

 夕真はセシリアの手を掴むと駆け出した。

 幸い触手の伸びる速度は速くない。

 そして触手だって躰の一部なのだから、何処までも追跡してくるとは考え難い。

 ならば触手の射程圏外まで逃げ切れば大丈夫なはず。



「わっ!ぬるって、ヌルッて脚に触れたッ!あぁあ、まだ、っまだ追ってきてる!ゆ、ユーマ!」



 本日の教訓。

 冒険者は儲かる以前に命の危機に瀕することがあり、文字通り命懸けの仕事だ。

 そんな当たり前なことを夕真は強く認識した。







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