04.『仲間』
「へぇ。じゃあユーマはその召還魔法を探して旅をしているわけね」
森を抜けて見通しの良い平野をセシリアと並んで歩きながら、二人は雑談に興じていた。
「守護獣召喚なら訊いたことはあるけど、………ごめんなさい私は知らないわ」
「いや別に急いでるわけじゃないからさ。今はのんびり旅でもして見聞を広めるのが優先かな」
見聞を広める。
その言葉に嘘はない。
事実夕真は異世界に召喚されただけにこの世界の習慣や常識に疎かった。
だからこそ学ぶことは山のように多い。
自分ぼ力で生きていかなければならなかった。
頼る場所も、頼る人もいないのだから。
「そういえセシリアは?見たところその刀が関係してそうだけど……」
大事そうに抱えた一刀の剣。
鞘に納められ刀身を見ることは適わないが、柄から鞘の先までが重厚な漆黒色の剣。
鍔から鞘の先までは僅かに反っていることから西洋剣というより刀と称したほうが正確かもしれない。
「正解よ。私はね、この刀の主を探してるの。名前も年齢も顔すら知らないけど、その人を探すのが私の使命。ようは人探しね」
名前も年齢も顔すら知らない。
どこにいるか定かではない、探し人。
誰かが訊けば一笑されてしまいそうな目的だが、夕真は笑うことなど出来なかった。
語るセシリアの瞳は真剣そのもの。
言ってしまえば夕真の探す召喚魔法、正確に云うなら『送還魔法』だって実在するかどうか解らない。
召喚魔法は別の場所から他者を呼び寄せる魔法。
召喚魔法があるならばその逆、対になる魔法があるかもしれないと夕真は思った。
それが『送還魔法』だ。
他者、つまり自身を別の場所に転移させる魔法。
そんなあるかどうかすら解らない魔法を夕真は探していた。
実在すらか解らない魔法。
何処に居るか解らない探し人。
夕真とセシリアの目的はどこか似ていた。
「………ねぇ、ユーマ」
「ん?」
「良かったら私と組まない?」
「……は?」
「いいじゃない別に。こんな美少女である私と一緒に旅が出来るんだから。……もしかしたらさっきみたいな嬉し恥ずかしのハプニングだってあるかもよ?」
「おい止めろ。忘れろ、今すぐ記憶から消去してくれ」
期せずして思い出してしまったセシリアの胸の柔らかい感触に、つい夕真は声を荒げた。
その様子にクスクスと笑うセシリア。
「いやー、可笑しい。……ねぇどうかしら?私は属性特化『氷雪』の魔法使い、中々重宝すると思うわよ」
「……あー、ごめん。その、属性特化って何?」
腰に手をあて胸を張り誇らしげに言うセシリアに、しかしその言葉の意味を知らない夕真は首を傾げた。
ピシリ、とセシリアが固まった。
「………ぇ、嘘、その……知らないの?だって、ユーマも魔法使いでしょ?」
「いや俺は魔法使いじゃないから」
「はぁあ?」
セシリアは理解出来ないとばかりに疑問の声を上げた。
◆ ◇ ◆ ◇
結論から云えば四峰夕真は魔法使いではない。
当然だ。
夕真が生まれ育った日本という国、地球という世界では魔法とはフィクションの中でしか存在しない空想上の産物だったのだから。
しかしこの異世界では魔法が存在していた。
魔力と魔法。
魔力は生物本来に宿る生体エネルギーのことであり、そのエネルギーを身体の内外に干渉置換された現象が魔法だ。
魔法には個々人によって得手不得手の属性がある。
大別して四つの属性。
火。
水。
風。
地。
その四つの属性を称して、基本四大系と呼ばれている。
だが夕真はそのどれにも当て嵌まらなかった。
魔力を練ることは出来るが、それだけだ。
先程セシリアを助けた魔法も、簡単に云えば魔力を圧縮してさながら弾丸のように射出しただけだ。
「つまりユーマは無属性魔法を使うってことかしら?…………訊いたことないわね」
「……あー、いや…………。正確には魔砲、だ」
「ーーーぇ?ぅ、嘘、でしょ、…………魔砲?」
魔砲。
それは魔力を固定化し放出するという、魔法技術の最低位、基礎の基礎といわれる魔法だ。
魔法属性も付与せず、ただただ魔力の塊を放出するだけで、子供でも使える単純な魔法だ。
魔砲。夕真が使える唯一の魔法だった。
不思議そうに首を傾げるセシリアだが、それは夕真自身解らないこと。
夕真に魔法を教えた祖父すら首を傾げていた。
だから厳密に細分化すれば夕真は魔法使いでは無いのかもしれない。
「………どうだ?落胆して組む話しは白紙か?」
夕真の言葉に、クスリと笑い首を横へと振る。
「冗談。下がるどころか益々貴方に興味が湧いたわ。さぁ!これからが楽しみねっ」
子供のように無邪気にはしゃぐセシリアを見て、夕真もつられてクスリと笑った。