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01.『半年後、旅立ちの日』



 風が髪を撫でつけた。

 優しく、それでいて丁寧に。

 それは在りし日の祖父がしてくれたように若干のくすぐったさを伴った。

 穏やかな微風はまるで送り出してくれるかのように吹き抜けた。


 少年、四峰夕真は眼前に建つ平屋の家を観ている。

 祖父と過ごした半年間の記憶が鮮やかに思い出される。

 そう、この異世界に連れてこられて半年が経っていた。

 長いようであり、また短くもある。

 穏やかに微笑む祖父。

 諭すように叱りつけてくれた。

 頭を撫でて褒めてくれた。

 そしてそんな祖父は、三日前に眠るように息を引き取った。

 穏やかな顔だった。



『ーーーーなぁユーマ』



 臨終のさい、祖父が言う。



『すまないな……、儂の我儘でお前を巻き込んで。わしの、儂のせいで家族や親しい友をーーーー』



 半年前。

 夕真は全てを失った。

 世界を。

 家族を。

 友達を。

 恋人を。

 生活を。

 生きていた軌跡さえ失ったのだ。

 それでも、と。夕真は泣きながら反論した。

 家族なら祖父がいた。血は繋がっていないが、それすら関係ない。

 この半年間は何よりも楽しかった、と。



『……本当に、優しい子だなユーマは。儂も楽しかったよ』



 祖父が穏やかに笑いかける。

 泣きじゃくる夕真の頭を優しく撫でた。



『ユーマ。世界は広い、そして不思議に満ちている。旅に出てみるのもいいものだよ……』



『儂は、幸せだったよ……』




 その言葉を最期に、祖父は逝った。


「……俺こそ、ありがとう、じいちゃん」


 供養は済んだ。

 涙は出し切った。

 旅立つことに、不安はない。

 ーーーーーだから。



「行ってくるよ、じいちゃん」



 半年間暮らした家を背に、歩き出す。

 一歩。

 また一歩。

 離れていく家との距離。


 ふあっ、と。また微風が吹き抜ける。



『行ってらっしゃい』



 そんな声が聞こえた気がした。








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