00.『果たされし約束』
*注) 稚拙な文章で亀更新ですが、生暖かい目で観ていただければ幸いです。
「ーーーーあぁ。そうか……。あれからもう、………五十年も経つのか」
誰に語りかけるでもない呟きが漏れた。
呟いたのは老人。
豊かな白髪に穏和そうな人柄を想起させる瞳。目許には深い皺が刻まれ、男が高齢であることを窺わせた。
「さぁ。今こそ君との約束を果たそう」
ーーー我、願い求めるもの也。
友との命約に従い 魔法を代行する者ーーー
低く落ち着い声色が明朗に響く。
その声は聖句を詠み上げる聖者のように厳かでいて神聖なものだった。
「“扉と扉を繋げし朱き糸”」
男の左手には緋い背表紙の古書が開かれ、英字ともギリシャ文字とも判別出来ない文字が綴られている。
その古書はうっすらと燐光を帯びていた。
「“刻みし螺旋 描きし方陣 囲いし円陣”」
男の足元に突如白銀色の光が溢れた。
まるで光そのものが生き物で在るかのように蠢く。
角形と角形が重なり、
円と円が螺旋のように繋がり、
複雑な文字が添えるように綴られる。
「“紡ぐ言ノ葉に意味を乗せる”」
それは正しく魔法陣と呼ばれるものだった。
「 “我が名”
“我が血”
“我が魂” 」
紡ぎ終わると同時に、男はどこからともなく剣を取り出し、床へと突き刺した。
よく見ればされは魔法陣の丁度中心になる位置だった。
ーーー銀の御印と系譜に誓う
その瞬間、男の足下に形状された幾重にも重なった魔法陣が鳴動するかのように一層強く輝く白銀色に染まり、暴風が吹き荒れた。
『 召喚 』
男は小さく笑う。
嬉しそうに、どこか誇らしそうに。
光が収まり。
暴風が止む。
未だ燐光を発する魔法陣。
突き刺された抜き身の剣。
そして。
其処には黒髪の少年がいた。
少年は突然のことに驚いているのか目を見開き、固まっている。
見れば少年のその瞳も髪と同色に黒い。
ーーーー珍しい。常闇を想わせる漆黒の髪と瞳、か。
男は心の中で呟き、未だ固まっている少年に出来るだけ優しい声色で告げた。
「ようこそ異世界へ。世界は君を歓迎する」