第六話 禁断の地へ
前回はっちゃけすぎて何人かの方に注意されたので、しばらくは少し大人しめでいきます。
この小説は『健全な変態』を目指しておりますので。
2012年 5月6日 畑山香樹様が書いてくださった志乃の絵を載せました。
「いよいよ明日ね広人」
金曜日の夕食中、姉さんはそう切り出してきた。
「明日? 何かあったっけ?」
「もう。この前約束したでしょ。今度のお休みにデートするって」
ああ、そういえばそんな約束をしたような・・・。確か、買い物に行くんだったよな。
「まさか・・・忘れてたの」
「ゴメン。今思い出した」
「ひどいわ広人。お姉ちゃん、ずっと楽しみにしてたのに」
「うっ・・・本当に悪かったって。ちゃんと付き合うから許してくれよ」
「なら許します」
「何時くらいに出るのか決めてるの?」
「十一時には出ましょうか。ついでにお昼も外で済ませれば広人も楽でしょ」
「そうだな」
夕食を済ませると、姉さんは風呂に入った後、さっさと部屋に戻って寝てしまった。明日寝坊しないためとか言ってたけど、どんだけ楽しみにしてるんだ・・・。
「・・・まあ、そういう俺も楽しみなんだけどな」
目覚ましをいつもより遅くセットする。十一時外出だから・・・九時三十分くらいにしておけば大丈夫だな。
「さてと、俺も携帯小説でも読みながら寝るかな」
電気を消し、携帯を操作する。・・・あ、お気に入りのヤツが更新されてる。
「相変わらず、この人の小説は面白いな・・・」
しばらく読み続けているうちに、次第にまぶたが重くなって来たので、俺は携帯を閉じた。それからしばらくして、俺は意識を手放したのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「・・・ぷにぷに」
・・・ん?
「ぷにぷに」
何だ? 頬に何か当たって・・・。
「うふふ、可愛い寝顔。・・・キスしちゃいたいくらい」
これは・・・姉さんの声? 何で聞こえるんだ?
静かに目を開ける。すると・・・。
「ん~~」
超至近距離に目をつむった姉さんの顔があった。・・・って!?
「ドワオ!?」
俺は慌てて飛び起きた。
「どうしたの広人? そんな世界最後の日を迎えたような声を出して」
「あ、姉さんも知ってるんだ・・・。じゃなくて! 何で姉さんが俺の部屋に!?」
「起こしに来てあげたのよ。ふふ、お姉ちゃんに優しく起こしてもらえるなんて、弟の特権でしょ?」
時計を見ると九時二十五分を指していて。図らずも、起きようとしていた時間の五分前だった。
「そ、そうか・・・。ありがとう、姉さん」
「どういたしまして。本当はもっと早く起こそうとしたんだけど。つい広人の寝顔に見とれちゃってね。・・・至福の三十分だったわ」
という事は、俺は三十分間姉さんに寝顔を見られ続けていたって事か。・・・うう、なんか妙な恥ずかしさが・・・。
「ところで広人。どう、この格好?」
改めて姉さんの姿を見る。白いブラウスに、赤と黒のストライプが入ったミニスカートと、太ももまで包むニーソックス。とてもシンプルだが、その分姉さんの魅力がストレートに出ている。
「うん、よく似合ってると思うよ。ただ・・・」
「ただ?」
「スカートがちょっと短か過ぎるような。それじゃあ下手したら見えちゃうぞ」
「大丈夫よ。こういう格好には、ちゃんと見せないようにする工夫っていうものがあるのよ」
そう言って、姉さんはその場で一回転した。スカートがふわりと浮き上がり・・・・うん、見えました。バッチリと。
「どうだった?」
「う、うん。見えなかったよ」
「あら、おかしいわね。わざと見えるように動いたんだけど」
「んなっ!?」
「今日は白にしたんだけど・・・どうだったかしら」
「姉さん!」
「あははは♪」
いたずらっ子のように笑いながら、姉さんは部屋を出て行った。俺はというと・・・しばらくベッドから起きられなかった。
「(あれは姉さん! あれは姉さん!! あれは姉さん!!!)」
・・・OK。クールダウン完了。俺は改めて起き上がり、着替えを始めた。そして、部屋を出て洗面台で顔を洗い、リビングへ向かった。
「広人。朝ごはん出来てるわよ」
机にはトーストとコーヒーが置かれていた。
「姉さんが作ってくれたのか?」
「わ、私だってこれくらいは」
朝食を食べ、テレビで時間を潰していると、いつの間にか十時五十分を過ぎていた。
「そろそろ出ましょうか」
「そうだね」
「さあ、今日は目一杯デートするわよ!」
というわけで、姉さんと一緒に街へ繰り出したのだが・・・。
「おい、あれ・・・」
「うわ、滅茶苦茶美人じゃん」
「ちょっと、どこ見てんのよ!」
「(やっぱりこうなるか)」
至る所から向けられる視線。それは全て姉さんに集中していた。
姉さんの人気は学校だけに留まらない。こうして街を歩けば、すれ違う男のほとんどが振り返る。そして、姉さんに見とれた後は、必ず俺を睨みつけてくる。
「何であんなヤツが・・・」
「くそ、リア充め・・・」
「お前も彼女いるだろうが」
言われなくてもわかってる。姉さんがこうして俺と一緒にいてくれるのは、俺が弟だからだ。そうじゃなければ、俺なんかが相手にされるわけがない。
「ひ~ろと♪」
満面の笑みを見せる姉さん。・・・それだけで、暗い気分がずいぶん楽になった。
昔からそうだった。俺が泣いていた時、落ち込んでいた時、まっさきに励ましてくれたのは姉さんだった。だから俺は姉さんに感謝しているし。そんな姉さんが大好きだった。
だから、俺も弟としてこれからも姉さんを支えていきたい。いつか、姉さんが結婚して俺と離れるその時までは。
「どうしたの姉さん」
「呼んでみただけ」
「何だそれ」
「ふふ」
「(姉さんが笑ってくれるなら、俺はなんだってやるさ)」
それからしばらくして、俺達はデパートに到着した。このデパートはこの地区でも最大規模の大きさで、ここで手に入らない物は無いとまで言われている。
「ところで姉さん。いったい何を買いに来たんだ」
「行けばわかるわ」
というわけで、姉さんの後をついて行くと。俺はあるコーナーにたどり着いた。
「ね、姉さん。ここは・・・」
男が手にすればほぼ間違いなく白い目でみられるであろう物がそこにはあった。現に、男性客は一人もいない。
「下着売場だけど?」
そう。俺が連れて来られたのは、女性物の下着売場だった。売場には青や白の“それ”がたくさん並べられている。そして、それらを手に取って楽しそうに談笑している女性客達も・・・。
「今日は下着を買いに来たの。最近またブラがキツくなってきちゃったのよ」
「へ、へえ。そうなんだ。じゃあ、俺は向こうのベンチで待ってるからゆっくり選びなよ」
そう言って、俺はその場を後にしようとしたのだが・・・。
「待って」
そんな俺の手を、姉さんはガッチリ掴んだ。
「な、何?」
「広人、あなたも一緒に行くのよ」
「どこへ?」
「下着売場へ」
「誰が?」
「あなたが」
「・・・何故?」
「広人に私の下着を選んで欲しいの。男性視点っていうのも面白そうだしね(ホントはあなたの趣向を知るためだけど)」
「お、俺が姉さんの下着を・・・!?」
「ダメ? 広人が選んでくれたら、お姉ちゃんとっても嬉しいんだけどな~」
期待する目で見つめてくる姉さん。協力したいのは山々だが・・・。」
「(いや、さすがに下着というのは・・・)」
さっき決意したばかりなのに、俺は早くも挫折の危機を迎えていた。
ブッ飛んでいる姉ですが、暴走さえしなければ普段は茶目っ気のあるお姉さん・・・という感じです。
弟の方も、実は姉が大好きです。ただ、今のところは“弟として”ですが。