第二十四話 お誘い
お待たせしました。久々更新です。
ゴールデンウィーク最終日の夜、俺は部屋のベッドに横になってこの連休の事を振りかえっていた。・・・振り返ると言っても、ほとんど姉さんと過ごした記憶しかないが。
この連休・・・一言で言えば“疲れた”だろうか。主に精神的な部分で。
昨日も亮介さん達と出会った後、四人でゲームセンターに行ったり、カラオケに行ったり色々遊んだが、そこでも大変だった。
美男子と美少女が一緒に歩く。それだけで大勢に人間の視線が集まって来た。まあ、普段姉さんと歩いていた時にも感じていたので、別段驚きはしなかったのだが、問題はそこでは無い。女性は亮介さんを、男達は姉さん達を見つめた後、ほぼ確実に俺を睨んで来たのだ。
理由としては、「何でお前みたいな平凡野郎がそこに交じってんだよ! 自分と代われ!」とでも思われていたのだろう。俺としてはこう反論したい。
そんな事言われなくてもわかってるわい!
ちくちくと刺さる視線の刃を受け続け、結果、俺は精神力をごっそりと持って行かれたのだが、カラオケで聞いた三人の歌にちょっとだけ心を癒された。
「お耳汚しだけど」と言っていた亮介さんは、その実もの凄くレベルが高かった。男には出し難い高音の曲から、腹に響く低い曲まで、ジャンルを問わず様々な曲を見事に歌いきっていた。
その妹である命さんもまた凄かった。女性アイドルの曲が多かったが、たまに演歌を混ぜて来たのは驚いた。しかもめっちゃ拳きいてたし。ただそれよりも、歌い終わるごとに拍手する俺達に照れたように頬を染める様が可愛過ぎてそっちに意識が向いてしまった。
そして最後に姉さん。なんか「弟」やら「愛してる」といったワードが入った曲ばかり歌っていたが、感情の籠った歌声にすっかり聞きいってしまった。ただ、毎回歌い始めに「私の歌を聞けー!」というのは恥ずかしいので止めて欲しい。
とにかく三人ともホントに上手だったわけだ。かくいう俺は、まあ無難に歌った。姉さんはテンション高く合いの手とか入れていたが、正直あんな凄いもの聞かされた後で歌うのはかなり勇気が必要だったが・・・。
そんな感じで昨日は過ごしたのだが、今日は最終日という事で、一日中ボケーっとしていた。明日からまた学校生活が始まる。そういえば、連休明けすぐに命さんが転校して来るらしいけど、きっとこれまで以上に騒がしくなるんだろうな。何せ、亮介さんの妹である上に、あの美少女ぶりだ。男子も女子も放っておかないだろう。
(命さんなら大丈夫だろうけど、何かあったらちゃんと手助けしないとな)
命さんの事を案じつつ、俺は早めに寝る事にした。
翌日、教室に入ると、何故か皆妙にソワソワしていた。とりあえず席に着いたが、気になったので近くのヤツに聞いてみた。
「なあ、どうかしたのか?」
「お前、知らないのか? 今日神代会長の妹さんが転校して来るって話」
俺は目を丸くした。
「え!? な、何で知ってんだ!?」
「何でって、連休前から神代会長が言ってたのを聞いたからだよ。「僕の妹が連休明けに転校して来るから仲良くして欲しい」って」
まさかの身内情報!? てか亮介さん、それはまずいでしょ! 前々から思っていたが、もしかしなくてもシスコンなのか!?
「あの神代会長の妹さんだぜ。きっと相当可愛いんだろうなぁ」
「ま、まあ、確かに綺麗な人だけど・・・」
って、やばい! 今の言い方だと・・・!
「え、黒川。お前見た事あるのか!?」
ああ、やっぱり。案の定食いついて来た。
「教えてくれよ。どんな人だった?」
「お、俺が言うより、自分で見た方がいいんじゃないのか?」
「んー・・・、それもそうだな。楽しみはとっておかないと」
(ふう、危ない危ない。・・・にしても、これは本気で大変そうだな、命さん)
「おはよー、広人君」
「直也・・・お前、亮介さんの妹の話聞いてるか?」
「え? あ、うん。どんな人なんだろうね」
ああ、お前もか・・・。
朝っぱらから予想外の出来事に辟易しながら、俺は一時限目の準備を始めた。
そして昼休み。いつものように姉さんと今日子先輩が教室へやって来た。ただ一つ違うのは、そこに命さんが加わっていた事だった。
噂の人物の登場に色めき立つ教室。この調子だと中庭で昼食と取ろうものならもっと大きな騒ぎになるだろう。困った俺達を救ったのは、この騒ぎの原因である亮介さんだった。
「僕について来て」
言葉に従って姉さん達と一緒に後をついて行くと、亮介さんは三階のとある教室の前で足を止める。そこには「生徒会室」と書かれていた。
「ここなら静かに食事を取れるよ。さあ、どうぞ入って」
「いいのか? 私用で使って」
「問題無いよ。今は僕しか使っていない部屋だしね」
今日子先輩の問いに、亮介さんは苦笑い気味に答えた。自分しか使っていないとはどういう意味なんだろう?
中に入ると、まず目に入ったのは、コの字型に配置された机に、椅子が五つ。それからホワイトボードにパソコン。きっと会議とか資料作成とかに使うんだろう。他に目立つような物は無い、なんともシンプルな部屋だった。
それぞれ席に着いた所で、まず亮介さんが頭を下げた。
「まずは謝罪を。こんな騒ぎを起こしてしまって本当に申し訳ない」
「お前がシスコンだという事は前々から承知していたが・・・」
真っ先に今日子先輩が口を開く。てか、やっぱりシスコン認定されてたんですね亮介さん。幼馴染の先輩が言うんだから間違いないんだろうな。
「僕としては、ただみんなに命と仲良くして欲しかっただけなんだけど」
「それ自体を悪く言うつもりは無い。ただ、お前は自分の影響力というものを全く理解していない」
「凄かったわよね。休み時間の度に、何十人もの生徒達が命を見に教室までやって来たんだもの。おかげで移動教室が大変だったわ」
「ふ、ふん。ホントあいつら、アタシなんか見て何が楽しいんだっての」
命さんが独り言のようにそう漏らす。多分恥ずかしかったんだろう。思い出したのか、顔が若干赤い。
「・・・ん? て事はもしかして命さん」
「ええ、私達と同じクラスよ」
「やっぱり。それならフォローしやすいな。姉さん、命さんが困ってたらちゃんと助けてあげなよ。あ、もちろん俺も手助けしますから、何かあったら言って下さいね。俺に出来る事なら何でも協力しますから」
「あ、ああ」
命さんの顔が再び赤くなる。なんだろう、また何か思い出したんだろうか。
「ちょっと命! 私の前で広人にトキメキ視線送らないでよね!」
「な、ば、馬鹿言うな! んな視線送ってねえ!」
「いや、私も見たぞ。いいか命、広人君はいずれ私の夫となる人だ。ライバルになるというのなら手加減はしないぞ」
「お前ら! 人の話聞けよ!」
「はは、モテモテだね広人君。羨ましいよ」
あれはただの悪ノリです。そして亮介さん、今の発言は多くの男子の怒りを買いますので金輪際止めてください。
こんな感じでグダグダになりつつも、この騒ぎが収まるまで命さんのフォローを徹底するという事でこの話は終了したのだが、どうやら亮介さんは謝罪の為だけに俺達を生徒会室へ招いたわけではないようだった。
「実はこっちが本題なんだけど。キミ達にお願いがあるんだ」
「お願い・・・ですか?」
「うん。是非ともキミ達に生徒会に入ってもらいたいんだ。現在、生徒会は会長である僕一人なんだけど」
「え? ちょ、ちょっと待ってください。それっておかしくないですか。生徒会って普通、副会長とか書記とか色々・・・」
「ああ、普通はそうだろうな。だが広人君、こいつは一人で全ての職の仕事をこなしてしまう化物だ。その所為で元々選ばれた副会長以下の者は自分達の存在意義を失って皆辞職したんだよ」
「ええ!?」
なんか驚いてばっかだな俺。だが、実際驚くしかない。改めて亮介さんという人間のスペックの高さを思い知らされた。
「今までは何とか僕一人でやって来れたんだけど、これから文化祭や体育祭といったイベントが待ってるし、流石に僕だけじゃ無理だと思うんだ。僕だけの問題ならいいんだけど、楽しみにしている生徒のみんなに準備不足とかで迷惑をかけたくないんだよ」
そしてやっぱり、この人滅茶苦茶いい人だ。ただ、亮介さんに言われたらみんな喜んで準備とか手伝ってくれると思うけど。主に女子とか。
「アタシは、お兄様の力になれるなら構わないけど」
命さんは乗り気みたいだ。それとは対照的に、姉さんと今日子先輩は難しい顔をしている。
「私はパスかな。生徒会の仕事で広人との時間が減るのは嫌だし」
「そうだな、私も同じだ」
「そうか。・・・なら、広人君はどうだい?」
「え? お、俺ですか!?」
「どうして驚くんだい?」
「だ、だって、生徒会って魔法の優秀な人間しかなれないってイメージがありますから。実際、俺の通ってた中学の生徒会はそうでしたし。だからてっきり、姉さん達だけに言ってるのかと思って」
学校では、生徒同士の魔法を使った争いも少なくない。そういったものを止める為、実力のある人間は生徒会に推薦されていた。もちろん、俺はされた事無いけど。
「確かに去年の会長達もみんな優秀だったけど、別にそういう規則とかは無いよ」
「そうなんですか?」
「うん。それに、もしそんな規則があったとしても、僕はキミを誘ってたと思うよ」
「え?」
「キミは少しの助言だけで魔法の扱い方がとても上手になった。キミの実力はこれからどんどん高まっていくはずだからね。もしかしたら、僕なんかよりもずっと」
いやいや! ありえませんから! 何でそんな当然のように言うんですか!
「同じ光属性としてのカン・・・かな。とにかく、答えは今すぐじゃなくていいから考えてみてよ」
いつもの爽やかスマイルを浮かべる亮介さん。こうして、俺は生徒会という全く予想だにしない場所へのお誘いを受けてしまったのだった。




