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第二十三話 あの忘れ得ぬ日々

志乃SIDE


ゴールデンウィークは早くも折り返しの三日目。この日も広人との時間をたっぷりと満喫した私は、夜になって今日子と電話で話をしていた。


「でね、そこで広人ったら真っ赤になっちゃって。ふふ、すっごく可愛かったの」


「くっ・・・! そんなおいしい場面になぜ私はいなかったのだ・・・!」


最初は普通の雑談だったんだけど、いつの間にか広人の話になっていた。既に電話をかけてから一時間を過ぎている。・・・まあ、今日子とだったら、広人の話で後二時間くらいは余裕でいけるけどね。


「まあいい。ならば私は、以前私の下着姿を直視してゆでダコ状態になった広人君の写真を枕元に置いて寝るとしよう」


「それって、去年くらいにやったドッキリのやつ?」


二人一緒に下着姿で広人の部屋に突撃して、確か、その後気絶して一時間くらい起きなかったのよね。刺激が強すぎたのか、それからしばらく私達と顔を合わせようとしてくれなかったのを覚えている。


「それにしても、こうもお前の惚気話ばかり聞かされると、こちらとしてはいくぶんかの嫉妬を禁じ得ないのだがな」


ちょっと拗ねたような声。学校ではクールだと思われてるけど、実は結構子どもっぽい部分もあるのよねこの子。


「・・・今、私の事子どもっぽいと思っただろう?」


「(鋭い!)ま、まさか。そんな事ないわよ。それより、そういう事なら、明日三人でどこか遊びにでも行く?」


「・・・すまない。明日は大切な用事があるんだ」


当然「行く」と言うかと思っていたのだけれど、予想に反し、今日子の口から出たのは断りの言葉だった。ちょっと・・・というか、かなり意外。この子が広人絡みの話に乗って来ないのは、おそらくこれが初めての事だった。


志乃SIDE OUT



広人SIDE


ゴールデンウィークも残す所あと二日。今日こそ部屋でのんびりしようと思っていたのに、気付けば姉さんと一緒に街へと繰り出していた・・・のだが。


「うーん・・・やっぱりおかしいわ」


肝心の姉さんはさっきからずっとこの調子だ。いつもならテンション高く手を繋いだり腕を組もうとして来たりするのだが、今は納得いかないといった顔で一人うんうん唸っている。・・・言っておくが、別に寂しいとか物足りないとか思っているわけでは断じてないからな。


「・・・って、誰に言い訳してんだ俺」


「どうしたの広人?」


「それはこっちのセリフだよ。姉さんこそ、さっきからどうしたんだよ」


とりあえず聞いてみると、昨日の夜、今日子先輩を誘ったが、用事があるとかで断られてしまったそうだ。


「その話のどこに悩む要素が?」


「だって、今日子が誘いを断るなんてありえないんだもん」


「何で言い切れるんだ? ・・・もしかして、何か先輩の弱みを握ってて、それを盾にして・・・」


「親友相手にそんな事するわけないでしょ!」


「ご、ごめん」


心外だと言わんばかりに声を荒げる姉さん。直後、俺は自らの発言を大いに悔いた。姉さんと今日子先輩の仲を疑う様な発言は禁句だったのに。だって先輩は、姉さんにとって親友であると同時に・・・。


どこか気まずい空気が漂う。それを払拭したのは俺でも姉さんでも無く、背後からかけられた第三者の声だった。


「おや? もしかして、広人君と黒川さんかい?」


その爽やか過ぎる声の心当たりは一人しかいなかった。そして、振り返った俺の前には、やっぱり予想通りの人物が立っていた。


「やあ、奇遇だね」


「亮介さん!」


今日も流石のイケメンっぷりである。さらにその後ろには命さんもいた。以前デコピンを受けた額が一瞬疼いた感じがしたが・・・気のせいだろう。


「買い物か何かかい? 相変わらずキミ達姉弟は仲がいいね。まあ、仲の良さならこっちも負けてないけどね。命?」


「ア、アタシに振るなよ」


「ははは・・・っと、紹介するのが遅れたね。この子は・・・」


「知ってるわ。亮介さんの妹でしょ」


「あれ? もうキミ達には紹介したかな?」


姉さんの口調はいつもの感じに戻っていた。ホッとしつつ、少し驚いた様子の亮介さんに説明する。


「実は、ちょっと前に今日子先輩を通じて知り合ったばかりなんですよ」


流石に本当の事を話すわけにもいかないので、それっぽい事を言ってみると、亮介さんは納得したように頷いた。・・・何だろう。罪悪感が半端じゃない。


「ああ、そうだったのか。よかったな命。転校して来る前に友達が出来て」


「べ、別に友達ってわけじゃ・・・」


「そういえば、命さんっていつ頃星神高校に転校して来る予定なんですか?」


「この連休が終わってすぐだよ。広人君、ぜひとも仲良くしてやってくれ」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


「・・・(ジーーー)」


「? 何だよ」


「今の所は心配無し。・・・ただ、警戒はしておくべきかしら」


「だから何がだよ」


姉さんが命さんを見つめながら何やら呟いている。何か警戒とか不穏な単語が聞こえた気がするが・・・うん、追求するのは止めておこう。間違い無くややこしい事になる。


「そうだ。せっかくこうして会えたんだし、よければこのまま四人でどこかへ遊びに行くのはどうだい?」


「あ、いいですね」


「えー。せっかく広人と二人であーんな所やこーんな所に行こうと思ってたのに」


「どこに連れてく気だったんだよ! 元々今日子先輩も入れる予定だったなら別にいいじゃないか」


「今日子がどうかしたのかよ」


「あ、はい。昨日姉さんが誘ったそうなんですけど、今日は大切な用事があるからって断られたそうです」


「用事? ・・・ああ、そうか。今日はあの子の・・・」


「亮介さん、何か知ってるんですか?」


「うん。ただ、これは僕の口から言う事じゃないな」


ふと神妙な顔つきになった亮介さんに尋ねるが、答えは得られなかった。何やら事情がありそうだし、これ以上詮索するのは野暮だよな。


「・・・わかりました。それじゃあ、気を取り直して、どこに行きます?」


「僕は三人の意見を優先するよ」


「アタシは別にどこでもいいぜ」


「なら、とりあえず適当に歩き回ってみましょ。そのうちどこか見つかるでしょ」


「そうだね。それじゃあ、行こうか」


こうして、亮介さんと命さんを加え、俺達四人は改めて街中を歩き始めた。


広人SIDE OUT



今日子SIDE


「到着しました、お嬢様」


車から降りれば、目の前には長い長い石造りの階段。もう、何度ここを昇り降りしただろうか。


「すまないな、永井さん。毎回毎回連れて来てもらって」


「勿体無いお言葉でございます。私はここでお待ちしておりますので、存分にお話しされて来てください」


「ああ。今回も報告する事がたくさんあるからな」


一礼する永井さんを背に、私は花束を手にして階段を昇る。一段一段、踏みしめるようにゆっくりと。


やがて、階段を昇りきった私の前に、たくさんの墓石が姿を現した。


ここは墓地。ここに“あの子”が眠っている。私の大切な、かけがえのない家族だったあの子が。


『石田』と彫られた墓の前で立ち止まる。側面には、先祖の名前が刻まれ、その最後にあの子・・・晃の名前もある。


石田晃・・・わずか六歳でこの世を去ってしまった、私の最愛の弟。晃を亡くして以来、私は月命日に欠かさずこうして会いに来ていた。


「ふふ、一か月ぶりね、晃。さあ、今日は何から話してあげようかしら」


晃が生きていた頃の口調で、私はここ最近の出来事を一つずつ語り始めたのだった。

前回から半年以上経っちゃいましたね。申しわけありません。

勘の鋭い方は、多分今回の話で気付いた部分があるでしょうね。おそらくその通りに物語が進むでしょうが、胸の中に仕舞っておいてくださると助かります。

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