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第二十話 放課後の秘め事

四月も残す所あと一週間。間近に迫る大型連休に、クラスメイト達は盛り上がっていた。ま、俺もその一人なんだけどな。


「しっかし、もの凄い濃い一ヶ月を過ごした気がするな」


姉さんとの二人暮らし。魔法の特訓。そして、命さんと不良グループのトラブル。おかげで退屈だけはしなかったが、やっぱり少し疲れが溜まっている感じがする。


(命さんとはあの放課後から会ってないけど、きっと亮介さんと仲良くやってんだろうな)


「広人君は連休に何か予定あるの?」


「いや、何も。そういう直也は?」


「僕は部活かな。六月にある料理コンテストに向けてみんなで新作料理を考えなきゃいけないんだ」


「へえ、大変そうだな」


「ううん、楽しいよ。ただ、作った料理を完食しなきゃいけないのがちょっと辛いけどね」


「何で完食するのが辛いんだ?」


「作るのは一品だけじゃないし、それに、美味しく出来たらいいけど、そうじゃない物が出来ても残しちゃいけないのが決まりだから」


なるほど。たしかに、直也みたいに細いヤツに大食いさせるのは酷だな。


(しかし、こう聞くとちょっと興味が湧いてくるな)


「どうしたの?」


「直也、今日部活だろ。よかったら遊びに行ってもいいか?」


そう言うと、直也は心底驚いたような表情を見せた。


「あ、遊びに来るって・・・」


「もしかして、ダメなのか?」


「う、ううん。そういうわけじゃないよ。ただ、きっと今日も部長が・・・」


最後の方は小さすぎて聞き取れなかった。ただ、どう見ても直也は嫌がっているように見えた。


「あー、やっぱ止めとくわ。お前も迷惑そうだし」


「め、迷惑なわけないよ! 遊びにおいでよ!」


「そうか? なら今日の放課後にお邪魔させてもらうぞ」


「う、うん」


この時の直也の微妙な表情の理由を、俺は放課後になって知る事になる。




昼休み、いつもの様に姉さんと今日子先輩の二人と中庭で昼食を取る。そこで、ふと今日子先輩が話を切り出した。


「そういえば、亮介から聞いたが、近い内に命がここに転校してくるらしいぞ」


「どうしてですか?」


俺は驚きつつも尋ねた。


「命の本心を聞いた亮介がまた暴走してな。二度と命にそんな思いをさせないよう、これからは一緒にいるべきだとおじ様とおば様に言って、二人もそれに賛成したそうだ」


「命さん本人は?」


「渋々だが承知したらしい。まあ、元々自分を変える為に聖クロイスに入ったのだから、その必要性が無くなった今、聖クロイスにこだわる事も無いからな」


「そうですか」


「ふうん、あの子がねえ・・・」


「どうしたんだ姉さん?」


「広人。私の知らない所で女の子と知り合ったのは・・・まあ、一万歩譲っていいとして」


「譲りすぎだろ・・・」


「でも、これだけはしっかり確認しておかないといけないわ」


「な、何・・・?」


かつてないほどの鋭い目で俺を見つめる姉さんに、自然と背筋が伸びる。


「広人、あの命って子との間にフラグは立ててないでしょうね! ただでさえ、あなたは無自覚の内に立てまくるんだから!」


「・・・へ?」


これほど間抜けな声を出したのは初めてだった。そんな俺の前で、姉さんはころころと表情を変える。


「はっ! それともまさか、立てるどころかとっくに回収済みなの!? 答えて広人! 返答しだいではお姉ちゃん、今から聖クロイスの方に向かって最大魔力を込めたフォースブレイカーを撃ち込むのも辞さないわよ!」


言いつつ、立ち上がった姉さんは両手を掲げる。その間に小さな光の球が出現したのを見て、俺は声を張り上げて答えた。


「んなわけないだろ! てか答える前から撃つ気満々じゃんか!」


「そうだぞ志乃。お前は広人君が知り合ったばかりの相手に手を出すような節操無しだと思っているのか」


今日子先輩の援護射撃もあって、姉さんは魔力を霧散させて手を下ろした。そして何事も無かったかのように元の場所に座った。


「助かりました、先輩」


「なに、志乃の暴走を止めるのは私の役目だからね」


「なんか、最近の姉さんの行動を見てると、姉さんが何を考えているのかわからなくなってきましたよ」


「・・・今も昔も、考えているのは一つだけだと思うがな」


「何か言いました?」


「独り言さ。気にしないでくれ」


「ぶーぶー! 二人だけで楽しそうに何話してるのよぉ。私も混ぜなさい」


こうして、俺はあっさりと最大の危機を迎えた命さん、そして聖クロイスの通う生徒達をこれまたあっさりと守る事に成功したのだった。




そんでもって放課後。俺は料理部が活動している調理室へ続く廊下を歩いていた。直也は部長に俺が見学に行く事を伝える為に一足先に向かっていた。


「えっと、ここか」


料理部が活動している調理室は、家庭科室の隣にある。『調理室』というプレートがついている教室の扉を開いて中に入ると、エプロン姿の女子生徒が六人、教室中央で何やら話をしていた。


(あれ? 直也の姿が見当たらないけど・・・)


「・・・あら」


その中の一人、眼鏡をかけた女子が俺に気づいて近寄って来た。


「え、えっと、俺は直也と同じクラスの黒川 広人です。今日は遊び・・・見学に来たんですけど」


「ああ、直也君から話は聞いてるわ。ようこそ料理部へ。私は二年生の沢城 香澄よ。一応、この部の部長をさせてもらってるわ」


部長・・・沢城先輩は柔らかな笑みを浮かべると、俺の手を取った。


「さあ、いつまでもそんな所にいないで、こっちにいらっしゃい」


「え、あ・・・」


俺は部員達の元へ引っ張られ、あっという間に囲まれてしまった。何故か皆、興味深そうに俺に視線を向けている。


「この人が、あの黒川先輩の弟・・・」


「普通だね」


「うん、普通」


(くっ、今なら動物園にいる動物達の気持ちがわかる気がする)


「こらこらみんな。そんな言い方は失礼でしょ」


沢城先輩の一言で、ようやく解放された。そこで改めて部員達の顔を見てみると、その中に見覚えのある子がいた。


「あれ、住谷さん?」


「こんにちは、黒川君。まさかキミがここに来るなんて思っても無かったよ」


それは、同じクラスの住谷さんだった。明るい性格で、女子達の纏め役でもある。密かに男子達の間でも人気があるのは秘密だ。


「で、肝心の直也は?」


尋ねると、沢城先輩がさっきとは違う意味深な笑みを浮かべた。


「ふふ、それじゃ、黒川君も来た事だし、登場してもらいましょうか」


俺以外の全員の視線が、教室前方、家庭科室と繋がるドアに向けられる。何事かと思い俺もそれに倣うと、そのドアが静かに開いた。そして、そこから姿を現したのは、黒と白を基調としたふわふわとしたメイド服を纏い、顔を真っ赤にした・・・


「うう・・・」


直也だった。


「・・・は?」


それを見た俺は、またしても間抜けな声を漏らすのだった。

前回から約三ヶ月。皆さん本当に、本当にお待たせしました! ネタが浮かばずズルズルと執筆が滞ってしまい、気づけばこんなにも間が空いてしまいました。


しかも久しぶりの更新なのに、内容スカスカで申し訳ありません。まだ探り探りで書いてますので、本格的な再会はもう少しかかりそうです。

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