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第十六話 家族

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「ごきげんよう、恵美さん」


「ごきげんよう、日向さん。お気をつけてお帰りくださいね」


赤レンガで作られた校門から、ラノベや漫画でしか見た事無いような挨拶を交わしながら、たくさんの女生徒が出てくる。皆、歩き方から話し方まで、全てが優雅で上品に見えた。


「・・・さすが、お嬢様学校は違うな」


俺が今立っているのは、聖クロイス女学院の校門前だ。何故、隣町にあるこの学院までわざわざやって来たのか。その理由はもちろん、命さんに会うためだ。


ここで、昨日の午前中に交わした、亮介さんとのやり取りを回想する。


・・・・・・・


・・・・・


・・・


『亮介さん。あの、妹さんの事なんですけど・・・』


命さんと出会ってから、既に四日が経過していた。その間、話を聞こうと放課後、命さんを探し回ってみたのだが、全て空振りに終わってしまった。なので、さりげなく亮介さんに尋ねてみた。


『はあ・・・』


亮介さんは落ち込んだ様子で溜息を吐いた。もしかしたら、命さんと何かあったのだろうか。


『命は昨日、マンションに帰ってしまったよ。もう少し泊まっていってもよかったのに』


泊まっていた? そうか。だからこっちで出会う事が出来たのか。


『結局、命が何を悩んでいたのかは聞き出せなかったよ。次こそ話してくれるといいんだけど・・・』


それだ。どうして命さんは、亮介さんに不良グループとの諍いを話さないのだろうか。やはり、その部分を本人から聞いた方がいいかもしれない。


俺は部外者だが。先輩が、ましてや、俺の悩みを解決してくれた恩人が困っているのに、その俺が何もしないわけにはいかない。そう、これはいわば、亮介さんへの恩返しなのだ。


『もうこっちで会えないのなら・・・やっぱ、行くしかないか』


『どこへだい?』


『こっちの話です』


『?』


・・・・・・・


・・・・・


・・・


回想終了。というわけで、翌日の放課後。つまり今だが。俺は電車を利用して、隣町にあるここ、聖クロイスにやって来たのだ。


「それにしても、遅いな・・・」


既に校門前に待機して三十分以上が経過していた。そろそろ、周りの視線が気になりだした頃、お目当ての女性が姿を現わした。


「命さん。今日は色々お手伝いして頂き、ありがとうございました」


「クラスメイトだろ。いちいち気にするなって」


「ふふ、命さんは本当に優しいですね」


「こ、これくらい普通だろ」


友達らしき女生徒と一緒に校門を出た命さんが、ふと俺の方へ視線を向け、それから目を丸くした。


「あれ? お前・・・広人じゃん。何でお前がここにいるんだ?」


「ちょっと話したい事がありまして・・・」


近寄ってきた命さんと話す。すると、一緒にいた女生徒が俺を興味深そうに見つめて来た。


「まあまあ、この方は。・・・もしかして、命さんの彼氏かしら?」


その言葉に、命さんは顔が真っ赤にしながら、慌てて反論した。


「ち、違う! 彼氏なんかじゃない! こいつはこの前知り合ったヤツで・・・!」


「照れなくてもいいじゃないですか。貴方、お名前は?」


「く、黒川 広人です」


「黒川さん。命さんはとても優しくて素敵な女性です。クラスメイトや後輩達も、命さんにはとても親切にして頂いていますの。もし、そんな命さんを悲しませるような事がありましたら・・・」


上品な笑顔から一変、女生徒は底冷えするかのような冷たい表情を浮かべながら、一言だけ口にした。


「・・・潰します」


「ッ・・・!?」


こ、怖えぇぇぇぇぇぇぇ! 目がマジだよこの人! 絶対殺るよこれ! 夜道とかでサクっといっちゃいそうだよ!


「では、私はお先に失礼いたしますね。せっかくの恋人どうしの一時を邪魔したくはありませんから」


再び柔からな微笑みを見せつつ、女生徒はゆっくりとした歩調で去っていった。場には、顔を赤らめている命さんと、冷や汗をかきながら震えている俺だけが残された。


「くそ、綾のヤツ。変な事言いやがって。・・・おい、広人!」


「ひゃいっ!?」


「不抜けた返事してんじゃねえよ。話があんだろ? 近くに喫茶店があるから場所移すぞ」


「わ、わかりました」


いつの間にか注目の的になっていたみたいだ。俺達は逃げるようにその場を後にし、命さんが言った喫茶店へと入った。


「コーヒーひとつ」


「あ、俺も」


「かしこまりました。少々お待ちください」


ウェイトレスがいなくなったところで、命さんが口を開いた。


「で、話って?」


「その前に一つだけ確かめたい事があるんですけど」


「何だよ?」


「命さんって、お兄さんいますよね? それで、そのお兄さんは、俺と同じ星神高校に通ってる三年生の神代 亮介さん・・・」


「何で知って・・・って、当然か。お兄様はお前の高校の生徒会長だもんな」


「じゃあ、やっぱり・・・」


「そうだ。神代 亮介はアタシの兄だ」


よかった。これで万が一ハズレだったら、何もかもが狂ってたところだった。


「何でお兄様の名前が出てくるんだよ」


「ええっと、亮介さんには俺もお世話になってまして・・・」


悩みを解決してもらった事を話すと、命さんは意外そうな表情を見せた。


「へえ、お前も光属性だったのか」


「はい。で、相談した事がきっかけで、普段も話すようになったんですけど、ちょっと前に命さんの話題になったんです」


「アタシの?」


「自分には命って名前の、お転婆だけど可愛い妹がいるって」


どれだけ自慢気に語っていたか話すと、命さんは照れたような、恥ずかしそうな顔をした。


「な、何が可愛い妹だよ・・・。お兄様の馬鹿」


・・・すみません、亮介さん。今、俺はあなたの妹さんを見て、“ものっそい可愛い”と思ってしまいました。


「え、ええっと。それだけじゃなくてですね。命さん、一昨日まで実家の方に戻ってたんでしょ?」


気持ちを落ち着かせながら話を続ける。


「そ、そんな事まで話したのか、お兄様は?」


「命さん、滅多に実家に戻らないんでしょ? だから、久しぶりに会えるのが嬉しいって」


「そうだな。聖クロイスに通うようになってからは、年に一回か、二回くらいしか帰らなかったからな」


「何か理由があるんですか? 聖クロイスに通いたいって言ったのは命さんなんですよね?」


「・・・」


命さんが無言になった。ちょうどその時、注文したコーヒーがやって来て、命さんはそれを口にした。


「あ、あの・・・。無理に聞くつもりは無いので、話したくなかったら別に・・・」


「それは興味本位か?」


真っ直ぐに見つめてくる命さん。睨まれてはいないのだが、それでも十分に迫力がある所為で、俺の心臓が激しく動き出す。


「違います。亮介さんが言ってたんです。命さんは何か悩みを抱えてるようだけど、自分には話してくれなかった。自分はそんなに頼りないのかって。命さんの悩みって、あの不良グループの事ですよね? 亮介さんに相談しないのには、きっと何か理由があると思ったんです。だから、その理由を聞いて、俺に何か出来ないかと思って・・・」


決して興味本位なんかじゃない。俺は命の目をしっかりと見つめた。


何分ぐらいそうしていただろうか。ふと、命さんが呆れたような表情を見せた。


「お前さ、自分がどれくらいお節介かわかってるか? まだ二回くらいしか会ってないアタシにそんな事言うなんて・・・」


「う・・・」


「・・・けどまあ、そこまで本気の目をされたら、無下にするわけにもいかねえしな」


「じゃあ・・・!」


「話してやるよ。アタシがどうして、お兄様に相談しないのか」


命さんはもう一度コーヒーを口に運び、改めて語り始めた。


「お前さ、アタシをどう思う?」


「綺麗な人だなと」


「ば、馬鹿! そういう事を聞いてんじゃねえ!」


「え? じゃ、じゃあ、一体・・・」


「アタシの口調とか見た目だよ。どう考えても、神代財閥のお嬢様にはふさわしくないだろ?」


自嘲するように言う命さん。


「アタシはさ、小さい頃からこんな感じだったんだ。いっつも悪戯して、そのたんびに、お父様やお母様、そしてお兄様に迷惑をかけてた・・・」


「・・・」


「アタシが言うのもなんだけどさ、ウチの家族ってみんなもの凄く優しいんだ。というか、お人好し? 困ってる人間がいたら、手を差し出すのが当然って考えてるくらい。でも、そんなお父様達だからこそ、周りの人間もお父様達を支えようと必死になるんだと思う。神代財閥は決して“利”の為に動くんじゃない。“情”の為に動くんだって、お父様はよく言ってた」


そういえば、神代財閥は、傾きかけた企業や会社を積極的に取り込んで、たった数年で立ち直らせるどころか、莫大な利益をあげさせてしまった事が何度もあった。その無謀ともいえるやり方の裏には、そんな理由があったんだな。


「それを見ててさ、気づいたんだ。お父様達に比べて、悪さして人に迷惑ばかりかけてるアタシはどんだけ馬鹿だったんだって。だから決心した。アタシも、神代財閥の娘として相応しい人間になろうって」


「じゃあ、聖クロイスに入ったのも」


「ああ。身近に本物のお嬢様がいる学校なら、それを真似てアタシもお嬢様の振る舞いを身に付けられるかもしれないって思ってな。・・・はは、馬鹿みたいだろ? そんな簡単に今までの物が抜けるはずがないってのにさ。現に、今も口調はこんな感じだしな。あまり実家に帰らなかったのも、家を出る前と全然変わってない自分を、お父様達に見せたくなかったからだ」


命さんが家を出た理由と、戻らなかった理由。それは、家族の為に変わろうと決意したから。そして、変わる事が出来ない自分を見せたくなかったからだった。命さんなりに、家族の為を思っての行動だったのだ。


「そういうわけだったんですね。では、不良グループの事を話さなかったのは」


「当然だろ? 神代財閥の娘が街の不良なんかと騒ぎを起こしたなんて知られたら、財閥全体に迷惑がかかっちまう。だからこの件は、アタシ一人でなんとかしないといけねえんだよ。・・・もう、絶対にお父様達に迷惑をかけたくない。これ以上みんなを困らせて、もし見捨てられたりしたら・・・アタシはきっと生きていけない」


不安げに俯く命さんに、思わず声をあげる。


「な、何で見捨てられるって事になるんですか! さっき言ったじゃないですか! 自分の家族はとても優しいって!」


「わかってる! けど、不安なんだよ! アタシは本当に神代財閥の・・・お父様とお母様の娘で、お兄様の妹でいいのかって。不安で不安でしょうがないんだよ!」


命さんの目が滲む。彼女は本当に不安なんだ。自分は本当に必要な人間なのかどうか。けど、それを聞くわけにもいかず、自分の中に閉じ込めている。


「・・・」


俺は何も言わなかった・・・。いや、俺なんかが軽々しく言えるはずがなかった。だから、俺は命さんが立ち直るまで、ただ無言で彼女の傍に居続けた。


それから三十分後。喫茶店を出た所で命さんと別れ、俺は駅へ向かった。それからさらに一時間かけて、俺は帰宅した。


「なあ、姉さん・・・」


夕食の時間、俺は姉さんに聞いてみた。


「なあに、広人?」


「あのさ、これは俺の友達の話なんだけど」


「ふんふん」


「その子はさ、凄く家族思いなんだ。それで、今まで迷惑かけてきた分、これから変わろうって決心した。でも、上手くいかなくて、家族に合わせる顔がないからって、距離を取った。悩みも打ち明けず、自分だけで抱え込んでる。これ以上迷惑をかけたら、きっと見捨てられるって思ってる。・・・どうすればいいと思う?」


姉さんは少し考えるように目を瞑り、それから口を開いた。


「どうかしらね。私はその子じゃないから、その子がどれくらい悩んでいるのかはわからない。けど、一つだけ言えるわ。その子はとてつもない馬鹿って事よ」


「馬鹿?」


「生きてる以上、迷惑をかけるのは当然よ。一生誰にも迷惑をかけずに生きられる人間なんているはずないじゃない。そりゃあ、他人に迷惑をかけるのはよくないけど、家族は他人じゃないでしょ? なのに、家族にすら迷惑をかけたくないなんて、そんなの、他人ですって言ってるようなものじゃない。アタシなら、一人で抱え込まれるより、迷惑をかけられる方がずっとマシだわ」


そうだ。姉さんの言う通りだ。確かに、命さんは家族の事を思っているのだろうけど、彼女はその家族から向けられる気持ちを考えてない。


「見捨てられるかもしれないって思うほど、その子は深く悩んでるのかもしれない。でも、それだって、もしかしたらその子の勘違いとか考えすぎかもしれない。もしそうだったら、その子の家族にとってこれほどヒドイ話ってないと思うけど」


「・・・」


「だから、断言出来る。その子は自分の気持ちだけ考えて、周りの人達の気持ちを見ようともしない大馬鹿だ・・・ってね」


一息に言って、姉さんは麦茶を口にした。


「なんて、偉そうな事言ってみたけど、あまり参考にならなかったかしら?」


「・・・いや、そんな事ない。ありがとう、姉さん。相談してよかったよ」


「ふふ、惚れ直した?」


「ああ」


やっぱりそうだ。命さんはあのままじゃいけない。命さんの為にも、そして亮介さんの為にも、やっぱり本当の事を話した方がいいはずだ。


「ひ、広人! 今のもう一回! ワンモア! アゲイン!」


「? 何の話?」

ちょっとシリアス回でしたが、最後はきっちりお姉ちゃんが占めてくれました。

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