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第十三話 帰り道での出会い

「ちょっと休憩するかな」


今日も魔法の練習をしていた俺は、休憩のために講堂を出て中庭に向かった。


「ジュースでも飲んで・・・」


「おや、広人君」


声をかけてきたのは亮介さんだった。相変わらずの素敵スマイルを浮かべている。俺は軽く会釈した。


「今日も練習かい? キミは本当に努力家だね」


「いや、まあ、やっと自分の魔法ってものに自信が持てた気がするんで」


「はは、それはよかったね。あ、ジュースを飲むのなら僕がおごってあげるよ」


「い、いいですよそんな・・・」


「いいからいいから。たまには先輩らしい事をさせてくれよ」


「(もう十分してもらってるんですけど・・・)」


「コーラでいいかな?」


「あ、はい」


先輩が硬貨を入れ、コーラのボタンを押す。下から出てきた缶を俺に向かって放った。


「ありがとうございます」


「どういたしまして。そうだ、広人君。よかったら少し話でもしないか?」


「いいですよ。ちょうど休憩しようと思ってたところですから」


俺達は近くのベンチに腰掛けた。夕日に照らされながら、二人でコーラを飲む。


「ふう・・・。美味いな。僕はコーラが好きでね。家でもよく飲んでるんだよ」


「へえ、意外ですね。先輩ほどのお金持ちだと、そういう下々の物には口をつけないイメージがありましたけど」


「おいおい、ひどい偏見だなぁ。確かに僕はそういう家に生まれたけど、ハンバーガーだって食べるんだぞ。特にチーズバーガーが大好きだ」


なんかこの人、考え方が今日子先輩に似てるな。庶民的というか何というか・・・。


「そういう広人君はどうなんだい? 今は黒川さんと二人暮らしなんだろ?」


「はい。・・・って、何でそれを」


「今日子ちゃんに聞いたんだよ。何やら羨ましがっていたけど。・・・正直、僕も羨ましいと思ってるんだよね」


それって、姉さんと二人暮らしをしている事が? ・・・もしかして亮介さんは姉さんの事が・・・。


「あ、あの、もしかして亮介さんは姉さんを・・・」


「ん? ・・・ああ、違うよ。確かに黒川さんは素敵な女性だけど、僕が羨ましいのはそこじゃないんだ。彼女は僕など眼中に無いみたいだしね」


なんだ、違うのか。・・・・よかった。


「(・・・よかった? 何でホッとしてるんだ、俺?)」


「僕が羨ましいと思ってるのは、姉弟で一緒に暮らせている事なんだ」


「? どういう意味ですか?」


「実はね、僕には妹がいるんだ。でも、その妹とは数年前から離れ離れになってしまって・・・」


亮介さんは遠い目をしながら答えた。その背中には言いようもない寂しさが浮かんでいた。


「亮介さんは、その妹さんの事が大好きなんですね」


「当然さ。家族だからね」


はっきりと言う亮介さん。その姿が姉さんと重なった。


「妹さんってどんな人なんですか?」


「名前は命って言ってね。・・・身内贔屓を差し引いても、可愛い子だと思うぞ。ただ、ちょっとお転婆な所があって、僕もよく振り回されてたなぁ・・・」


「へえ・・・」


懐かしむように語る亮介さん。それからしばらく妹さんの話を聞き続け、キリがよくなったところで、俺は亮介さんと別れて講堂に戻った。


・・・・・


六時を過ぎた頃、俺は練習を切り上げて帰宅する事にした。


「さてと、今日の夕飯は何を作ろうかな・・・」


献立を考えながら街中を歩いていると、何やら言い争う声が聞こえて来た。


「何だ?」


声は前方から聞こえた。目を凝らすと、ガラの悪い三人組が、一人の女の子を取り囲んでいた。


「あれは・・・『聖クロイス女学院』の生徒・・・?」


女の子が着ているのは、隣町にある超お嬢様学校『聖クロイス女学院』の制服だった。紺色を基調とし、一見長すぎるようなロングスカートは、軽々しく足を見せない為に考えられたらしい。


「・・・・」


女の子は無言だ。だが、それは恐怖で声が出ないのでは無いらしい。何故なら、女の子は眼光鋭く男達を睨みつけ、今にも殴りかかりそうな気配を醸し出しているからだ。


女の子と男達は数回言葉を交わした後、連れ立ってビルの隙間から裏道に消えて行った。


「これって・・・やっぱりアレだよな」


普通に考えて、あの学院の生徒があんな連中と関わりを持つわけがない。という事はつまり、あの女の子は無理矢理連れて行かれた可能性が高い。そして、わざわざ人目のつかない裏道に女の子を連れて行く理由など一つしかない。


「はあ・・・嫌なもん見ちまったなぁ・・・」


俺は別に聖人じゃない。見ず知らずの相手のためにお節介を焼けるほど性格も良くはない。・・・だが、目の前で起こった事を無視出来るほど要領のいい人間でもない。


まあ結局のところ、後味の悪い思いはしたくないのだ。


「三人か・・・。不意打ちすれば何とかなるか?」


街中なので魔法は使えないが、それは向こうも同じ。とにかく一発入れて女の子と一緒に逃げればいけるはず。


「よし、行くぞ!」


頬を叩いて気合を入れる。そして、四人が消えた隙間に駆け足で向かおうとした・・・、その直後だった。


「え・・・?」


連れて行かれたはずの女の子が裏道からたった一人で戻って来た。


俺はとっさに動きを止めた。“そういう行為”をされたのならこんな短時間で解放されるはずがない。


「・・・・」


「え、えっと・・・その・・・」


女の子は黙ったまま俺の顔をジッと見つめた後、そのまま振り返る事なく人ごみに消えていった。その銀髪のポニーテイルを左右に揺らしながら。


「な、何なんだ、あの女の子・・・。てか、あの連中はどうしたんだ?」


どうにも気になったので、俺は裏道に行ってみる事にした。


「うわ。なんだこれ・・・」


そこで俺が見たのは、地面に倒れ伏している三人の男の姿だった。そいつらは間違い無くあの女の子に絡んでいたあの三人だった。


「う、うう・・・。なんだよあの女・・・」


鼻血を垂らしながら、男の一人が呻く。察するに、こいつらをこんな目に遭わせたのは、あの女の子らしい。


「アグレッシブなお嬢様もいるもんだなぁ・・・」


俺はその場を後にした。自業自得な連中のために人を呼ぶつもりもない。


それから俺は、真っ直ぐ家に帰った。玄関に出た姉さんが何故かワイシャツ一枚(しかも俺の)という格好だったので、即座に着替えてもらった。


「ぶ~。何であの格好じゃダメなのよ~」


「人の物を勝手に着ないでくれ。あと、ああいう格好はしないって約束しただろ。さらに言えばあんな薄着だと風邪ひくぞ」


「何よ。広人のケチ。自慢の弟。だから大好き!」


「うん、二つ目からおかしいよね」


いつもの様に手早く夕食を作る。今日のメニューは豚の生姜焼きだ。


「う~ん。今日も広人のご飯は美味しいわね~」


「サンキュ」


その食事中。ふと、帰り道で出くわしたあの女の子の事が頭を過ぎる。間違い無く初対面のはずなのに、どことなく俺の知っている人物に似ていた気がする。


「どうしたの広人? 難しい顔しちゃって」


「ん? ああ、ちょっとな・・・」


姉さんに女の子の事を話してみた。


「・・・とまあ、そんな事があったわけだ」


話し終わると、途端に姉さんの顔が不機嫌になってしまった。


「ふんだ。私の前で他の女の子の話をする広人なんて知らないもん」


それっきり、姉さんは俺から顔を背けながら食事を進めるのだった。


「(やれやれ。これじゃあ口を聞いてくれそうにないな)」


結局、あの女の子に対する既視感がなんだったのかわからないまま、俺はベッドに横になった。

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