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わたしとボクのぬくもりの距離。  作者: 真川紅美
弐:真実
7/16

弐、 

 それからは夢うつつだった。

 激痛にさいなまれたかと思ったら、温かい指先がボクの手を包み込んでくれたり、髪を撫ぜられたり、頬を撫でられたり。

 声は聞こえなかったが、うっすらと覚えているのは紅い髪だった。

 そして、ふと、目を開いた。

 天井の暗さに不思議に思いながら、ボクは体を起こす。さらりと、いつもは束ねている、母に似た黒い髪が背中に揺れてくすぐったかった。

 右肩から左の腹までに引き連れた痛みを感じたが、動けないほどではない。

 ボクは布団をはいで、寝台の隣においてあった履物に足を突っ込んで、ふらふらする体を叱咤しながら寝室を出た。

「紅さま?」

 湯殿を使っていたらしい焔が素っ頓狂な声を上げる。

 髪を拭いたままの格好できょとんとボクのことをみて、そして、頭が理解したらしい。彼女はボクに駆け寄ってきた。

 だが、ボクまであと数歩というところで彼女の体が傾いだ。

「焔!」

 ボクが慌てて駆け寄って受け止めると、急な動きに耐え切れなかった傷が痛みを発する。

 息を詰まらせて痛みをこらえたボクは、ボクに寄りかかったままでいる焔を見下ろした。

「焔」

「ごめ、んなさい。ちょっとふらっとしただけで」

 そういって立とうとするが、体に力が入っていない。ひとまず彼女を床に座らせてみるが、一人で座れないようで、ボクに体を預けてくる。

 触れ合う部分がとても熱かった。

 湯殿から上がったばかりだからだろうか。

「焔」

 くたりとボクに体を預けて焔は目を閉じて浅く息をついている。けがをしているボクには荷が重い。

「だれぞ」

 よく通る声でそう呼ぶと、がたがたとあわただしい足音が聞こえてきて、ぞろぞろと人がなだれてきた。

 兄と、薬師と春と、その他侍女達だった。

「おま、いつの間に起きた」

「いきなりお起きになられるとは相当回復したようで」

「小言はあとで聞く。この子を」

「お?」

 兄はボクの胸に寄りかかっている焔をみてうれしそうな顔をした。

「だれか、赤飯」

「だれがやるか」

 薬師がすかさず近場にあった内履きで頭を殴る。見慣れたやり取りにボクはふっと息を吐いて焔を見おろした。

 そして、薬師は、ボクの顔色を確認してから焔の顔をみて苦笑をした。

「栄養失調に、疲労。ちょっとした風邪で熱が出ているようです」

「ボクの寝台に」

「それはだめだな。それに貧血もとれていない。だれか、そこの部屋の寝台を用意してくれるかな」

 なだれてきた侍女の何人かにそういった薬師は、ボクの胸にいる焔を取り上げて横抱きに抱き上げると、すぐに用意ができた寝台に彼女を寝かせた。

「風邪薬を作りましょうね。すこし待っていてください」

 侍女達も、それにしたがって引き下がる。部屋には意識を失ってしまった焔とボクと兄が残った。

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