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わたしとボクのぬくもりの距離。  作者: 真川紅美
幕間:領主様のおせっかい
12/16

幕間

「それで、どうして出て行ったかを、お聞かせ願えるかな? 焔」

 客間に茶を三杯、俺と庄屋と焔の分を出してもらって、焔と俺は向き合い、そのあいだの下座の席に、庄屋が座っている。

「……」

「いえることだけで良いのです。やはり父がらみですか?」

 庄屋が、そういえと焔に目で命じている。焔は小さくなってうなずいた。

 この子はそんな子じゃない。

 そう思いながら、俺はさらに追究した。

「あいつが、父に似ているからですか?」

 ぱっと彼女が顔を上げる。その顔にははっきりそうではないと書いてある。

 だが、悲しそうに目を伏せてうなずく。俺は深くため息をついた。

 気付かなかったが庄屋も嫌なやつだ。そう思いながら茶をすすって目を閉じる。

「そうですか」

 口先ではそういって、茶をおきながら目は信じないぞといってみる。

 彼女はそれを感じたらしく救いを求める目でこちらをみてきた。

「それだけを確かめたかった。ありがとう」

 切り替わった絶望の眼差しが俺を痛いほど見つめる。それを感じながら俺は立ち上がって庄屋にいった。

「あと、すこしだけ外で話したいことがあるので」

「ここでは不満でしょうか?」

「いや。これ以上いるとここの侍女になにかされそうで。俺も嫌われたもんですねえ」

 部屋の外で立ち聞きしている侍女達を指してそういって、焔を立ち上がらせて肩を引き寄せ、寄り添わせる。

「最後に見送ってもらいたいのですよ」

 肩を抱きながらそういった俺に、庄屋は微妙な表情を浮かべてうなずいた。

 焔には有無をいわせずに外に出て馬を受け取り門の外に出る。

 そして、数歩歩いてだれも追ってこないことを確認して、馬を盾に焔と向かい合った。

「どうして出て行った?」

 そう強い口調でいうと焔は泣きそうな目で俺をみて首を横に振った。

「連れてこられた?」

「違う、……紅さまが」

「紅がどうした?」

 赤い彼女の髪に手を持ってくると、涙にぬれた目で俺を見つめる。

 まるで子犬のようだ。

「紅さまが、こんな男の世話などもうしたくないだろう。体が治ったらどことへ行きなさい。そこの町であればキミを歓迎してくれるだろう。と」

「あのバカ」

 俺は思わず呟いていた。ボロが出てしまったか。

 きょとんとした彼女に俺はごまかすように笑ってその髪を撫でてやった。

「キミはどう思った?」

「え?」

「紅の気持ちを慮ってくれたのだろう? わたしがいれば、紅は辛くなる。と。だが、私はキミ自身の気持ちを聞きたい」

 細い肩を、ここに来て四ヶ月でようやくそこらの侍女と同じぐらいの肉付きになった肩を握って、目線を合わせる。

「キミは紅の隣から消えたかったのか?」

 一応、言葉を選んだつもりだった。

 だが、焔はわっと泣きはじめて両手に顔を埋めはじめた。

「泣かないで。なぜ……」

 いきなり泣きはじめた彼女に、俺はすこし慌てて首をかしげた。

 父が殺した人を想い、泣く母の姿をよく見ていたせいか、女が泣くのを見るのが嫌いだった。

「行きたくない。行きたくないの」

 いやいやと頭を振りながらそんなことをいう彼女に俺は、なにも考えずに彼女を抱き寄せ、胸を貸していた。

 焔もなにがなんだかわからなくなっているらしく、俺の胸にしがみついて泣きじゃくっている。

「行きたくない。紅さまのお傍にいたいの」

 悲痛な彼女の声。

 彼女も一杯悩んだろうな。

 それでも、彼女は端女だったということもあり、捨てられる、売られることに敏感なんだろう。

 売られるぐらいなら、町に下る、か。

 俺はそう思って目を伏せた。この子は自分の思いに気付きながらも、他者のために動いたのか。

 そして、あいつも極端に自分を出すことはない。父のようになってしまうのを怖がっているのだろう。

 あいつも結局、他人本意で動いている。

 似た者同士だったんだな。この二人は。

「ならばあいつにいってやってくれ。もうしばらくしたら、あいつもここに来る」

 それに気付いた俺はかすかに微笑んで、泣きじゃくる彼女を髪を優しく撫でて耳元でささやいた。

「え?」

 顔を上げて俺を見てくる彼女に、俺は、肩をすくめた。

「そうだな、二日後ぐらいにくる。というか、挨拶に行かせるから心の準備をしていてくれ」

「なぜ……」

 そして俺は、実はといって都に行くことを告げ、俺の後任に紅が入ることを告げた。

「そんな……」

「さっきまで私とキミが話していた、紅が云々というところはぼやかして、紅が俺のあとに入るということを庄屋に告げておいてくれるか?」

「え? ああ、庄屋さんとか街の人は紅さまがお嫌いなようですからね」

 納得した顔の彼女に、俺は内心舌打ちをしていた。本当は陽の話しを信じたくなかったんだがな。

「やっぱりそうか?」

「そうおっしゃっていました。だからおまえもここに着たんだろうと」

「じゃあ、なおさら隠しておいてくれな」

 うなずいた焔は、確認するように先ほど告げた俺の日程を範唱した。

「よく覚えていられるね」

「特技です。今まで話せなかったので、覚えるだけに集中していればよかったんです」

 にこりと笑う彼女に俺は微笑み返して頭を撫でた。

「では、よろしく頼む」

 はいと賢くうなずいた彼女に俺は馬にまたがって屋敷へ帰った――。

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