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わたしとボクのぬくもりの距離。  作者: 真川紅美
幕間:領主様のおせっかい
10/16

幕間

 弟が目を覚まして数日が経った。

 薬師、陽の話では無理さえしなければ傷口は開かないだろうとのことだった。

 紅自身、自分の限界は知っているらしく、暇つぶしの散歩をやめて屋敷に篭っているようになった。

 そして、そんなある日、彼の側女が町に下ったと町長から連絡を受けた。

「蓮様」

「紅はいるか」

 侍女の主である弟を尋ねると、他の侍女が慌てたように首を振る。

 目ざとい俺はそんな侍女を押しのけて部屋に入る。

「紅」

「なんですか、兄上」

 父とよく似た面差しが、表情をなくして俺を迎えた。いつの間にか精気のない顔をしやがって。

「焔はどうした?」

「暇を出しました」

「彼女は身寄りがないんだぞ」

「町長が引き取るでしょう。姪っ子なんですから」

 まるで父になってしまったかのような冷たい口調に、違和感を覚えた。

「おまえ、どうした?」

 そう聞くと、弟は無感動に俺を見上げ、そして、ふっとかげりのある笑みを浮かべて目をそらした。

「なにでもないですよ。ただ、俺のことが憎いのであれば、町へ下るがいいといったまでのこと」

「そんなことをあの子がいったのか?」

 そんなこと、とは憎いということだ。

 弟はただ、行動が示しているでしょ、とだけいって寝室に引きこもろうとした。

 その腕を強く引きとめて胸倉をつかむ。

「なにをやっているんだ。おまえは!」

「なにでもないですよ。ただ、ボクはボクのすべきことをしただけ。……あの子はボクの傍にいるべきではない」

 そういう弟の瞳が一瞬だけ潤んだ。

 それに目を奪われていると、弟は俺の手を振り払って、すばやい身のこなしで寝室へ入り、鍵を閉めてしまった。

「申し訳ございません」

 彼の世話をしている春が俺に向かって頭を下げるが、俺はただ、振りはらわれた腕を下ろして目を閉じた。

「一つ聞く」

「なんでしょうか」

 幼いころからここに使えてくれている春は、俺を見上げて首をかしげる。

「あの子は、焔はどんな様子だった?」

 その問いに春は、ハッとした顔をしてうつむいた。やはり、なにかがあったのか。

「わたしは引きとめました。でも、ご迷惑なようだからと町へ下っていきました。報告が遅れ申し訳ございません。紅様の命令で」

「べつに良いよ。……迷惑?」

「紅様にも尋ねましたが、そんなこと知らんと」

「あのバカ」

 俺はそういって今後の対応を考えながら弟の部屋をあとにしてのどの奥でうなった。

 庄屋立ち会いの下、話を聞くか。

 そう思い、使いを出そうとすると、薬師であり、幼馴染で俺の相談役の陽がやってきた。

「聞いた。お嬢ちゃん、いなくなったみたいだね」

「ああ。とりあえず、話を聞きに行くよ」

「その方がいい。絶対なにかある」

「だろうな」

 俺は肩をすくめて彼を私室に案内して鍵をかけた。

 妻は今、実家に帰っている。けんかをしたわけではなく、ただ仕度のためにだ。

「まあ、あのことだろう」

「父がらみだな」

「ああ」

 今、俺と紅の父親は地下牢につないである。

 紅が斬られたときに反撃した傷の具合が悪いので、表にはおけないと陽が判断したのだった。

「そういや、親父さん、オレの手には余る」

「なんで?」

 べつに治って欲しいなんて思ってはないけどと心の中で呟く。

 父親は仕込まれていた毒で頭が完全にいかれたらしい。

 陽が鼻で笑い飛ばしながらそういった。その気持ちはよくわかる。

 俺たちの心情をいうならば、ざまあみろだ。

「一つ一つ毒は抜いてみたんだが、遅かったらしくてね。もう正常には戻れまいよ。あのまま生かせておくのが酷だ」

 そんな俺の心を見抜いたかのように陽は苦笑をして肩をすくめた。

「飯食わせないでそのまま殺しておけ」

「ひど」

 これっぽっちも思ってないくせに。そう思いながら俺はもっともらしいことをいう。

「父がやってきたことはそういうことだ。反省してもらわねばなるまい」

 こんなことを思いつく辺り、俺も、所詮、あの人の子供なのだと実感する。

 紅もそうだろう。

 でなければあんな護身用の剣に陽が取り扱えない毒を仕込むことはしない。

「オレの裁量に預からせてもらえるかな? 領主様?」

 にやりと笑ったこいつに任せてまともなことになったためしがない。まあいいか。あの親父だし。

「ああ。いいよ」

 あっさりとうなずいて俺は使用人を呼び出し、町長の先触れを出した。

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