思い出の味
掲載日:2026/04/11
僕だけが知っている小さな食堂があった。
席は一つ、メニューもない。
座ると、その時の気分にぴったりの料理が出てくる。最初はただの好奇心で通い始めた。
中華が食べたい日もあれば、洋食が食べたい日も、AIロボットがそれを察知して出してくれた。
でもある日、会社で大きなミスをして、僕は深く落ち込んでいた。
そんな沈んだ気持ちのまま店に行くと、AIはふとソースカツ丼を出してくれた。
肉はお世辞にも分厚いとは言えず、キャベツも少しパサついている。
憂鬱な気分だったが、一口食べてみる事にした。
その一口が、僕の記憶を優しく呼び覚ました。
それは昔母が自分のリクエストで作ってくれていたソースカツ丼の味だった。
一口食べるたび少しずつ僕は自分を取り戻していった。
そして全てをきれいに平らげた時、久しぶりに母に会いに行こうかな、そう思った。




