表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

世界が止まった日

こちらはパソコン準拠で改行調整してあります。

スマホで読まれる方はカクヨム版をオススメします。

カクヨム版はiPhoneXRで改行調整してあります。

 メリアは、白い聖堂を見上げた。高い天井に整然と並ぶ石柱、天窓から

落ちる光が静かに床へ広がっている。祈りの時間が近く、信徒たちは自然と

声を落とし、聖堂には低い囁きだけが漂っていた。


 中央通路の奥から、二つの影が現れる。一人は神殿の高位聖職者、もう

一人は少女――メリアだった。周囲を固める神殿騎士たちの磨かれた鎧が

光を受け、歩みは静かだが隙はない。信徒たちは自然と道を開け、二人は

その間をゆっくりと進んだ。


 祈りのために整えられた、秩序の空間。メリアは歩きながら、ふと視線を

上げた。高い天井に交差する梁、天窓から差し込む光。観測するようにひと

眺めして、また前を向く。聖壇はすぐそこだった。


 そのとき、空気がほんのわずかに歪んだ。


 音はない。風もない。だがそこに、何かがあった。


 メリアの背後。何もない空間から、影よりも細い黒い線が伸びる。それは

迷いなく、首へ向かった。速い。避ける時間はない。


 触れた。視界が傾く。聖堂の柱が斜めになり、床がゆっくりと近づいて

くる。身体が崩れ落ちる――その刹那。


 世界が、止まった。


 囁きも、足音も、呼吸さえも動かない。光が空間に固定され、時間が凍り

つく。黒い線は空中に張り付いたまま動かず、メリアの身体は倒れかけた

姿勢のまま静止している。


 静止した世界の中で、ただ一つだけ動く影があった。神殿騎士。半歩、

踏み込む。銀の刃が振り抜かれ、一閃。空間が裂ける。


 そこに、何かがいた。人の形をしていたもの。それが崩れ、黒い泡が浮かび

上がる。泡は静かに膨らみ、弾けるように消えていった。残ったのは、床に

落ちた空の衣だけだった。


 その瞬間、世界が動き出す。囁き、衣の擦れる音、信徒たちの呼吸。何も

起きていなかったかのように、聖堂の時間が流れ始める。


 だが――ほんの一瞬前、確かに首が落ちかけていた。その事実は、どこにも

残らない。


 刹那、時間が逆へ流れる。光が戻り、空気が戻る。傾いた身体が元へ戻り、

黒い線が消える。聖堂の静寂が整う。


 メリアは歩いている。聖壇へ向かって。何事もなかったかのように。


 そのときだった。メリアの身体が、ふらりと揺れた。足が止まり、視界が

霞み、膝が崩れる。すぐ隣にいた高位聖職者が咄嗟に腕を伸ばし、倒れかけた

身体を支えた。聖堂にざわめきが広がり、祈りの空気が初めて乱れる。


 少女は意識を失っていた。白い光の下で。


 聖堂の誰も知らない。ほんの刹那前、この場所で――世界が止まったことを。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ