表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下人の茶室  作者: rhmgr
8/18

【序章‑8】信長の回想:宗春との初対面

藤吉郎の名を思い出したあと、

信長の思考は自然ともう一人の若者へ向かった。

(宗春……あやつと初めて会ったのは)

まだ宗春が、名もない小姓の一人にすぎなかった頃。

尾張の城の片隅で、

信長は偶然、宗春を見かけた。

冬の朝だった。

薄い光が廊下に落ち、

冷気が石畳を這うように流れていた。

宗春は、誰もいない広間の隅で、

ひとつの茶碗をじっと見つめていた。

(あれは……静かな子であった)

他の小姓たちは騒ぎ、走り回り、

声を張り上げていた。

だが宗春だけは、

茶碗の前で動かなかった。

信長は足を止めた。

宗春は信長に気づいたが、

慌てて頭を下げるでもなく、

ただ静かに茶碗を両手で包んだ。

その手は震えていなかった。

ただ、茶碗の“気配”を感じ取るように、

ゆっくりと呼吸していた。

(あのときから、あやつは“沈む光”を見る目を持っていた)

信長は宗春に声をかけた。

「何を見ている」

宗春は答えた。

「……光が、沈んでいきます」

信長は驚かなかった。

だが、心のどこかで

“これは使える”

と確かに思った。

(静けさの底を見る目……あれは珍しい)

戦の目でも、政の目でもない。

価値の“誕生”を見る目。

今日、宗春が九十九髪茄子を見て言った言葉——

「静けさ」

あれは、あの日の続きだった。

(あやつの春は、あの日から始まっていたのかもしれぬ)

信長は歩みを再開した。

宗春の“静けさ”、

藤吉郎の“動”、

そして自らの“冬”。

三つの季節が、

九十九髪茄子の光のもとで

静かに結びつき始めていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ