表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下人の茶室  作者: rhmgr
28/73

【第3章‑6】動き出す小屋──“動の美”のはじまり

茶室の寸法が決まり、素材が選ばれると、

藤吉郎はすぐに大工たちを呼び集めた。

丘の南側の窪地には、すでに木材と土が運び込まれ、

風の通りと光の揺れが、そこだけ違う表情を見せ始めていた。

藤吉郎は、地面に描いた四角の線を踏みしめながら言った。

「ここからが本番だ。

光が動き出す場所を、形にするぞ。」

大工たちは柱を運び、縄を締め、木槌を振るった。

その音は、戦場の喧騒とは違う。

一定のリズムを持ち、

土地の揺れと噛み合いながら響いていく。

宗春は、その音が空気を変えていくのを感じた。

柱が立つたびに、風の通りが変わり、

梁が組まれるたびに、光の流れが整っていく。

藤吉郎は、柱の一本に手を置いた。

「宗春。

柱ってのはな……

ただの木じゃない。

光の“止まり木”なんだ。」

宗春は、その言葉の意味を探った。

藤吉郎は続ける。

「光が止まる場所ができると、

そこからまた動き出す。

人の心も同じだ。

止まる場所があるから、動ける。」

宗春は、柱の影が地面に落ちるのを見た。

その影は、風に揺れながらも、

どこか芯のある形をしていた。

藤吉郎は、壁の位置を指示しながら言った。

「壁は厚くせん。

光が揺れる余地を残す。

けど、風は通しすぎたらあかん。

光が逃げる。」

宗春は、藤吉郎の言葉が空間の形を変えていくのを観測した。

信長の茶室は、光を沈めて測る空間だった。

だが藤吉郎の茶室は、

光を揺らし、動かし、心を動かす空間になろうとしている。

やがて、四本の柱と簡素な梁が組まれ、

まだ壁も屋根もないのに、

そこには確かに“部屋の気配”が生まれていた。

藤吉郎は、その中心に立ち、目を細めた。

「宗春。

ここに座ってみろ。」

宗春は藤吉郎の示す場所に座った。

すると、東から差し込む朝の光が、

柱の影と重なり、細い一本の筋になって宗春の目の前を通った。

光が揺れた。

風が揺れた。

空間が、わずかに震えた。

宗春は、その震えが胸の奥に届くのを感じた。

藤吉郎が言った。

「これが“動の美”だ。

光が動き、心が動く。

静けさとは違う。

けど、これも美なんだ。」

宗春は、言葉ではなく、

光と空気の変化としてその意味を受け取った。

沈む光ではない。

形を探す揺れでもない。

もっと速く、

もっと鋭く、

もっと熱い。

動き出す光が、空間の中で生きている。

宗春は、その光景を胸に刻んだ。

藤吉郎の“動”は、ついに美の領域に踏み込み、

空間そのものを揺らし始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ