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【第1章‑5】冬の光、春の芽
信長が名物を包み直すと、仮設の茶室に再び静けさが戻った。
冬の朝の光が障子越しに細く差し込み、畳の上に冷たい筋を落としている。
信長は立ち上がり、名物を懐に収めた。
その動きは、茶室で語られた静けさと同じく、迷いがなかった。
「宗春」
呼ばれた名は、茶室の空気よりも澄んでいた。
「おまえの目は、まだ弱い。
だが──冬の芽は、静かに育つ。」
宗春は深く頭を下げた。
胸の奥で、何かが確かに動いた。
それは熱ではなく、
光でもなく、
ただ“芽吹き”としか言えない感覚だった。
信長は茶室の出口へ向かいながら、
振り返らずに言った。
「行くぞ。
上洛の道は、まだ続く。」
宗春はその背中を追った。
茶室を出ると、冬の風が頬を刺した。
だが、その冷たさの奥に、
宗春は微かな温度を感じた。
茶室の障子が閉じられると、
沈む光の余韻だけが、静かに残った。
その光は──
宗春の胸の奥で、
小さな春の芽となって息づいていた。




