表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

推し俳優の舞台挨拶に行ったら……。



いや待て。

「なんで俺、ポチさんに膝枕されてたんだ?俺に気があるのか?…女も男もいけるクチとか言わないよね?」


「お兄がうなされながら、ひざまくらぁって何度も言ってたからだよ?」


どんな寝言だよ。


「私が愛するのはマリナージュだけだ」


良かったぁ。そっか奥さん一筋か。良い奴だ。

この人には礼儀正しく接しとこ。


「膝枕は今も雇い主によく懇願されているから、慣れている」


男に膝枕懇願されるって…可哀想な吸血鬼。


廊下から、ダダダダ!と病院に似つかわしくない音が聞こえる。誰かが廊下を走っているようだ。まもなくしてスライド式のドアが開かれ、看護師が「今日の面会はご家族だけですよ!」とカンカンに怒っている声が聞こえた。注意されたのにもかかわらず、体操服男はかまわずズンズンと歩いてくる。


げぇ。さっきの俺に惚れてる男……。


「山田!怪我は大丈夫か?」

「大丈夫に見えんのかよ。出てけ。警察呼ぶぞ」


来るなよ来るなよ、学校側はなにしてるんだ?

こんな阿呆を釈放するなよ、水槽にでも閉じ込めておいてくれよ。


「ま、まて、……俺、謝りたくて。少年院から出たばっかで、気分がブチ上がりしてたんだ。すぐお前に会えると思ったら、気持ち高ぶっちまって」


少年院て。非行少年かよ……。


「あ、なんだよその目!言っとくけど、そんなに悪い事して少年院入ったわけじゃないからな!ちょっと……バイク盗んで走り回ってただけでよ」


ちょっと程度じゃないだろ。

いまだにソレを”ちょっとした悪い事”だと思ってるんなら、まだ少年院で反省してた方がいいぞ。


「帰れ。お前の顔、見たくない」


顔を見てるだけでなんか骨折れそう。さっきよりズキズキするし。


ぷいっとそっぽを向いてやった。

横目で池面を見たら、下を向いてブルブル震え出した。

こいつは俺の事が好きらしいし、殴ってくることはないだろう。

ん?さっき殴られたな。


「テメェ……また俺をこけにしやがって!」


やばい。やばいやばいやばい!殴り掛かろうとしてない?!


「おい、俺は病人だぞ、落ち着けよ!」

「うるせぇ!初めて告白したときと同じこと言いやがって!」


告白済みだったのかよ!知らんがな!


―――ガブッ


「ぐあ!」


吸血鬼こと、ポチがナイスな行動をしてくれた。迷惑な体操服男の首に噛みついてくれた。

本当に吸血鬼だったのか!


血をジュウウ、ジュルジュル、ジュルルルルルゥと吸う音が聞こえ、体操服男はベッドに倒れた。


吸血してる時のポチの顔、こわぁ……。


なお、できる妹マリンはベッドに乗り、看護師の目を塞いでいる。


ファインプレー。

だがすぐに心配になってしまった。むかつく男だが、殺したいとまでは思っていない。


「し、死なない?」

「ひとくちだけだ。死なん」


あれ一口なんだ。めちゃくちゃすすってたけど。


「なぁに?お嬢ちゃん」

「お姉さん、いないない、バーしよ?」


「うふふ、お姉さんだなんてンマ~」

どうやらおこの看護師、お姉さん扱いがうれしいお年頃のようだ。


「今お仕事中なのよ、お嬢ちゃん、この手をどかしてくれないかしら?何も見えないわ」

「そっか。ごめんねお仕事中に」

「いいのよ、またこんど遊びましょ。あら、その人どうしたの?」


騒がしかった男が気を失っているのに気づき、看護師が近づく。


「お兄さん、起きて、こんなところで寝てたら邪魔よ。帰りなさい」


ぺちぺちと頬を叩かれ、体操服男こと、池面はゆっくりと起き上がり、ぼーっと宙を見た。


「……帰る……?」

「そーよ。さっきとはずいぶん雰囲気が違うのね。エレベーターまで案内してあげるわ」

「……わかった……」


そうして池面は看護師と共に病室を出て行った。


「あいつ、どうしたんだ?」

「吸血鬼に吸血された人間はしばらく頭にもやがかかったように思考が停止状態になり、従順になる。副作用みたいなものだ」


ふーん。便利だな、吸血鬼。


「あいつの首元の傷、大丈夫なのか?襟足で傷は隠れてたけど、相当深くぶっすりいってただろ。尖ったお前の歯で。手当しないとまずいんじゃ……」

「大丈夫だ。バンパイアの唾液は人間の治癒効果を高める。今ごろ噛まれた部分は完全に塞がっているはずだ」


やっぱ便利だ。吸血鬼。


「いいの?お兄、テレビつけないで。もうこんな時間だよ」

「こんな時間って…まだ18時だけど」


いやそれより俺はお前たちの関係の方がまだ気になっているんだが……

どこまでいってるんだ?さっきのほっぺキス以上のことはまさかしてないよな?


「マリン、いま何歳だ?」

「12歳だよ。次はもうすぐ中学生!」


うそだろ。8歳くらいだと思ってた。日本の子どもって小さいんだな。

いや12歳でもだめだ!


「ポチさん、いくら12歳でも、……その、ちゃんと大人になるまで我慢しろよ」

「なにを?」


俺に言わせるなよ。


「お兄がいつも見てる番組、これだよ」


マリンは勝手にリモコンを操作してお目当てのチャンネルに合わせた。


「ミカゲスバルさん!この人の演技を毎週ほめたたえるのが、お兄のルーティンだったんだよ?」


そんなに凄い人なのか?ちょっと気になってきた。

ふむ。まぁ顔はいいな。


「マリン、この人がすばるって人?」

「そーそー。やっぱり、この人の演技好き?」

「演技っていうか、……すごい殴りまくってるな。血しぶきもすごいし」


おい、銀髪、テレビの前に来るな。

お前の美人顔のせいで俳優の顔がぼやける。


「そういうドラマだからな。私も久豆に勧められて、最近見始めた」

「へぇ」

「ちょっと観よ。ぜったいお兄、このドラマ好きになるから!」


しばらく見ていたら、マリンの言った通り、俺は完全にそのドラマの虜となっていた。


真剣に3人で観ていたら、この体の親である、暗殺夫婦がようやく来た。


「久豆ちゃん!遅くなってごめんなさい。お母さん、お仕事で携帯の連絡に気づけなくて!」

(気づいてたけど、毒殺に時間がかかって!)


「すまない、久豆。心細かっただろう、父さんも仕事が長引いてしまって!」

(ターゲットが口をわらないから、拷問に時間がかかってしまって!)


聞きたくなかったよ、あんたらのその仕事……。

この能力は俺が意識的にOFFにしておかないと、またONの状態に戻るんだな。めんどくさい能力だ。ひとまずここはしおらしい息子を演じないと。


「来てくれただけでもうれしいよ、ありがとう、父さん、母さん」


「?!」「?!」


「か、かおり、久豆が…久豆がいま、ありがとうって言ったぞ?!」

「ええ!聞いたわ!夢みたい!」


息子が親にありがとうって言ったくらいでおおげさな。


「ポチさん、息子のお見舞いに来てくださってありがとうございます」


母親が銀髪の美人の手をぎゅっと握って感謝していた。

その横で、夫が銀髪美人を見つめる目は、どこか狂気じみていた。


「ええ、マリンから、お兄さんのことを聞いて心配になったもので。お母さんが来られたのなら、もう安心ですね。私はこれで失礼します」


母親とポチは面識があるみたいだ。吸血鬼とマリンの事情はどこまで知ってるんだろう。


「おっ、このドラマ……今週も観てるのか。好きだな久豆は」


父がテレビの音量を上げた。

うん、俺は今日初めて見たけど、最高だ。特にこの俳優の 御影みかげすばるって人。すごい良い演技する。人を殴るシーンが特に最高だ!


「来週、この人、近所の映画館で舞台挨拶に来るって話だぞ」


なに?!

「父さん、舞台挨拶って?」

「映画の上映前や公開初日に、俳優や監督が映画館に来てお客さんに挨拶するイベントのことさ。行きたいか?お前、この俳優さん好きだもんな。はは、顔に行きたいって書いてあるぞ」


おお、さすが父親。このゲッソリ幽霊顔でも息子の機微に敏感なんだな。


「できれば行きたい」

「よし、決まりだ!早く退院できるのが条件だぞ」


できる。そこの吸血鬼のツバつけときゃ治るから。ぜったい行く。


医者も驚くほどのスピードで骨のヒビをまぁまぁ完治させた俺は、あの憧れの俳優、御影すばるの舞台挨拶へ向かうことになった。


***

舞台挨拶当日。



はぁ、すごいドキドキする。本物の俳優見れるってすごくないか?


(きゃー、生すばる見れるって奇跡ー!うれぴー!)

(生よナマ!ナマすばるなんだから!)

(はぁはぁ、生すばる……じゅるり)

(うほっ……うほほっ…うほっ)


観客は父さんと俺以外、女ばかりじゃないか。まぁ、あの容姿ならそうなるだろうな。

というか観客の声ナマナマうるさいし、最後ゴリラだったぞ。すばるファン大丈夫か。


(腹が唾液でべちょべちょだ。あーあ、こんな状態で舞台挨拶するなんて。ファンに申し訳ないな)


む、男の声だ。くそ、骨折してから心の声をOFFにするのが難しい。微妙にまだ骨、ちょっと痛いもんな。体調悪いとこの能力にも影響するのか。


(笑顔、笑顔……)


この声……すばるさんの声に似てる?まさか!唾液でべちょべちょって……?


「今作の主演を演じた、御影すばるさんです!」


司会の声と共に登場した、涼やかな目元の青年が笑顔で登壇した。


すばるさんだ!ナマすばるだ!

あっ、俺もナマって言っちゃった。


「お、久豆、お前の方に手を振ってくれてないか?」


父さんの言う通り、なんとなくこっちに手を振ってくれている気がする。


(あれ、男の子がいる。珍しいなぁ)


お、おお、やっぱりすばるさんの生声だったか。そうだよな、俺、他人の心の声聞こえるんだもん。

すばるさんの声も聞こえちゃうよな。俺に手を振ってくれてるぞ。なかなかうれしいものがある。


(まさか俺が男相手に枕営業しまくってて、今朝も男に腹で遊ばれてたなんて、こんな純粋そうな子にはバレたくないなぁ)


………バレましたけど。秒で。


(どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ。俺はただ手取りで月20万くらいの収入で、演技をチョコチョコできたら良かったのに。なんでこうなっちゃったんだろうなぁ)



……すばるさん、あわれな人だった……。





19時更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ