繋がっていく感覚
「桜子、お前も推理小説とか読むだろ? ゆっくり考えてみてくれ。今の会話。」
沢田部長の目が少し大きく開いた。どうやら、桜子より先に俺の意図に気づいたらしい。
信じたいような、信じたくないような──そんな顔をしている。
「そんな馬鹿な……。だが……」
理星も何かに気づいたのか、天井を見上げながらデスク端のガムを一つ口に放り込んだ。それは、いつも冷静な理星が感情を動かしている証拠だった。
「待って、九条君。あなたが❝人間らしい❞としたら──その対極にいる彼らは、人間じゃないって言いたいの?」
「三好は、あり得ると思うか?」
あえて部長は、桜子に問いたのだろう。
「いや、理屈で言ったらあり得ません。だって犯行を犯しているのは、全員、生身の人間ですから」
──と言いかけて、桜子はピンクのマグカップをデスクに置いた。代わりに推しのアクリルスタンドを手に取り、ホワイトボードの方へ歩いていく。
……なぜ今そのタイミングで推しが必要なのか、俺には全く分からなかった。
「でも、おかしい。そう思ってしまうのは分かります。だって、世界で同様の事件が起きている。」
「そして、どこの国の事件にも──黒いコートの人物が、犯行前に必ず接触している。」
「黒いコートなんて世界中で売ってるけど、それでも不自然よね。」
「一人の人間がこれだけの国境を越えて接触するのは物理的に不可能。複数人で一人を演じているとしても、背格好や肌の色、性別、体型……無理がある。」
「極めつけは、犯行時の行動。迷いも躊躇いもない。最初から殺す訓練がされているような動き。取り調べの表情も……そう。」
桜子が小さく息を吐いた。
「──桜子、そこだ。」
「俺、さっき思ったんだ。桜子からキットカットもらって、『頭がフル回転してる時のチョコはやっぱり美味いな』って、芯から染み渡った。自然と頬が緩んだ。」
「これって、めっちゃ人間らしいだろ?」
「でもこいつらは違う。普通なら腹が減ったとか、名誉のために否定したいとか、何かしら感情が出るはずだ。」
「完全黙秘って言っても、普通は事件の話だけ黙るもんだ。それ以外の雑談や愚痴はポロポロ出る。でも、あいつらは違う。誰一人、表情を変えない。薬が抜けたみたいな、あの顔。」
「──もっと簡単に言えば、人間じゃないみたいってことだろ?」
桜子は腕を組みながら苦笑し、理星をちらりと見た。
「まあ多少強引だけど、『薬物やめますか? 人間やめますか?』って言葉もあるし……似てるところは、あるよね。」




