京都で育った男❝九条怜❞
──元々、ここには中途採用で来た。
いわゆる、スカウトというやつだった。
俺も此処に来て部長と話しをして知ったが、どの国の諜報機関でも、基本は自ら志願してくる者達を入れないらしい。
理由は色々とあるらしいが──ベースはスカウトで良い人材を見つけてくる、と。
俺もスカウトされた側だから、その話しはあながち嘘じゃないだろう、と思っている。
──俺、九条怜は京都の名家で育った。
警察組織とは無縁の家柄だ。
まあ、地元京都の関西弁で言うなら、それなりの【ええ処の子】というやつだ。
祖父は裏千家の家元と近しい人物で、父親は京都のとある地区の土地のほとんどを所有している。簡単に言うならば大地主だ。
そんな両親に自由に生活させてもらった俺は、中高をイギリスで過ごし、大学は京都大学へ。
就職は高校のボーディングスクール時代の先輩【ライリー・マクミラン】に誘われ、ウォール街の大手証券会社に無事に就職。
誰からも羨ましがられる会社だった。
でも……昔からどうも情の入りやすい性格だった俺は、その冷徹な金融の世界がどうしても性に合わなかった。
7年ほど働き、軽く世界を旅してから京都へ戻って、親父の経営している茶屋をのんびりと手伝っていた時、沢田部長からスカウトされたのだ。
それがちょうど一年八か月程前のことだ。
隣でモニターを見つめる三好桜子も俺と同じ時期の入所だ。
元々何をしていたのか詳しくは知らないが、五カ国語を話せるところを見ると、俺とは違い文系のエキスパートなのだろう。
人数の少ない内情庁だが、各々の仲が良く、得意分野を常にシェアして捜査している。
そのため、日本より早く無差別殺人が起きていた他の国の進歩状況と比べると、捜査進展は早いように思えた。
「それにしても、今回のこの件、本当にどこの国も❝黒いコートの人物❞の実情は掴めてないんですかね?」
俺がカロリーメイトを齧りながらそう言うと、呆れたように部長が口を開く。
「さあな。こっちが丁寧に話しを通しても、韓国もアメリカもフランスも、『こちらもそれ以上は…』と一点張りだ。」
「だけど、あながち分かってないのかもしれませんよ。」
「まあ、それも大いに有り得る話だな。俺たちですら分かってないんだからな。」




