親友との衝動〜譲れないモノ〜
ライリーの顔が明らかにムッとした表情に変わる。俺より長く金融業界に居た彼はかなりのポーカーフェイスだ。
ここまで感情をむき出しにした表情は、片手で収まる程度にしか見たことが無かった。
「ああ、俺だってお前みたいに、そうやって感情だけでぶつかって行きたいよ!」
「だがなァ、この国際チームを主導している者として──アメリカの立場として──イランを助けることは世界の示しがつかないんだ!」
「それは、イスラエル・ガザ問題も抱えている今、新たな紛争の火種になりかねない。そこで失われるかもしれない命の数だって頭に入れないといけないんだ!こっちは!……お前みたいに感情論だけでぶつかっていけない立場なんだよ!」
ライリーの大きな声が会議室に響く。俺を含む他メンバー達はその言葉に肯定も否定もしなかった。
それは……彼の言葉が個人的な信念と国家の枷の間で揺れる、苦悩の叫びであることが明らかだったからだろう。
流石にそこに畳みかけてまで攻撃を加える様な野暮な人間はこの部屋に存在しない。
シーンと静まり返る会議室──その時、ドミトリの顔色が変わった。
「…イランから、ロシア連邦経由で情報が共有された。核施設には6つのトリガーがある。そのうちの一つが、既にAIにより破壊された」
「俺たちもAIの欠点を知っているわけではない。どう助ければいいのか、論理的な解が、見つからない…」
ドミトリのその一言は俺に理性の崩壊を与えた。




