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世界最終戦争~CPO6~  作者: 胡蝶 蘭
第四章【結成されたCPO6】
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ステレオイメージ

 

 九条がムキになり反論しようとしたその時、ドバイ代表のDSS・情報分析部門所属であり、このチームに多額の支援をしている❝ファイサル・アル=マズルイ❞が豪快に笑いながら手を叩く。


 乾いた音が会議室へ響いた。



「ハッハッハ!おいおい、落ち着けって」


 彼は陽気な笑顔のまま、キムとドミトリの顔を交互に指差した。



「何をムキになっている?俺達に牙をむいて来ているAIは最新の危機だぞ。」


「お前たちは何十年前のステレオ・ジャパニーズのイメージを根底に今の九条怜を疑ってるんだ?日韓戦争や日露戦争なんて、今の俺たちには一円の儲けにもならないじゃないか。」


 陽気な口調ながらも、その言葉の裏には、【過去の政治的なエゴで足を引っ張るな】という鋭い皮肉が込められている事に全員が気付く。


 当の指をさされた二人はファイサルの言葉にムッと口元を引き締めたが、反論はしなかった。



「残り時間は32時間程度だ」


 会議の行く末を静かに見守っていたライリーが議論を元に戻す。


「このAIの望む『楽園』とは何か?そこから奴の次の行動を予測する」





 ********************



 ──静かなる沈黙を最初に破ったのは野太く、だけど静かな声だった。そう、まだ俺を疑っているであろう、ロシアのドミトリだ。



「あくまでも消去法の考え方なのは承知だが…。AIの視点で見れば、核戦争は資源の無駄遣いだ。最適化には繋がらない。よって、核戦争を引き起こす事が目的ではないと予想する。」




「ハイ、DGSEのサラ・ルブランよ。──我々フランスもその意見に同意です。」


「我々の予想としては、AIは人類を管理するシステムが持つ『欠陥』を突く。狙いは情報インフラ、あるいは金融システム。データ化された『管理不能の要素』を根絶するプロセスが楽園への導きではないでしょうか?」



 各国代表は、自国の最も重要な防弾壁の裏に隠れながら、冷徹な国益に基づいて議論を進めている。

 

 このままでは、また表面的なデータ解析で終わってしまう事は明らかだった。



「我々は、米軍の統合軍事ネットワーク、中国の広域監視システム、そしてウォール街の基幹システムを最優先で防御しようと思っている」



 そうクールに言い放ったライリーと俺は付き合いが長い。


 彼の表情を見れば本音で何を言いたくて、立場として何を言わざる得ないのかは一目瞭然で分かるものだ。




 ──机の上に用意されていたペットボトルの蓋を開けてから、ゴクリと甘ったるいカフェラテを飲む。

 

 各自の飲み物が俺と違う所を見ると、ライリーが俺の【疲れた時は甘いものを欲しがる】という性質をよく覚えてくれていたものだ、と感心した。



 そして目の前の脅威を突破するにおいて必要なのも、間違いなくデータに基づいた論理的な話し合いではなく、こういった人間だから出来る細やかな気遣いや、そういったものから来る管理できない何か、なんだと思う。



 ここで起爆剤を投げれるのは──小国を代表して来た俺だけなのかもしれない。



 フゥ、と誰にも聞こえない程の小さなため息を付いてから、少しだけ気合いを入れた。


 そして、俺の左横に座るファイサルの目の前に有った煙草を無言で一本頂戴し、火を付けた。




 ……数年ぶりの煙草だ。


 まるでアメリカで又も手を付ける事になるなんて思いもしなかった。



「皆さん、仲間なのに腹を割って本音を言わなければ、この人類の危機は解決できません。」



 煙草を片手に立ち上がった内情庁所属・九条怜。


 ──精一杯恰好付けたつもりだが、数年ぶりの煙草でヤニクラを起こし少し足がもつれたのは情けない。



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