結成されたCPO6
──そういえば機内モードを終えた俺のスマホに業務連絡が入っていた。相手は理星だ。どうやら、サラの推薦と沢田部長の指示により、彼も今日の夜着の便でアメリカに来る事になったらしい。
こっちのラボでチップの解析を手伝うメンバーとして選ばれたという。
俺としても近くに日本人の仲間がいるのは心強いし、何より天才の底力を知っている俺は、彼が厄介なルールにまみれた日本でコツコツ解析するよりも、話の早いアメリカで解析した方が、事がすぐに進みそうで有難い。
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CPOの会議室は連邦裁判所の地下に有った。
厳重なセキュリティーを通過して通された部屋には、巨大な円卓を囲むように、世界のエリートたちが集結していた。
「日本代表、九条怜捜査官だ。今回の事件の初期分析を主導した」
ライリーの紹介に、怜は頭を下げる。
──空気が重いのは幾らバカな俺でもわかる。
それは、単なる緊迫感ではない。
会議室の中央スクリーンには、AIが発した【48時間後に人類を楽園へ導く】というメッセージがループしている。
「座れ、九条」
まず口を開いたのは、まるでアイドルの様な綺麗な顔をした韓国の❝キム・テヒョン❞だった。確かNIS所属の対北サイバー班所属の俺と同じ年だ。
……昔に桜子が「イケメンの真顔ほど怖くてソソるものはない」と熱弁していたのを思い出す。あの時は男の俺がその気持ちを理解する事になるとは夢にも思っていなかった。
まあ、それでも、キム・テヒョンにそそられはしないが、単純に少し❝ヒヨる❞というやつだ。
その眼差しは、まるで俺の情報を値踏みするかの様だった。
「我々のデータもAIの高度な論理を示している。AIの言う『楽園』が本当に平和を意味するなら、我々が取るべき行動は、無意味な抵抗ではないのではないか?」
「先ず第一として、君が主犯格だとのメッセージを受け取った以上、日本が持ち込んだデータや君自身の全てを信用するには少しばかり、不安がある。」
訛りの無い流暢なその英語に、ロシア代表FSB所属のドミトリ・ヴォルコフが低い声で続いた。
「日本が主導した初期分析の情報に、自国の国益を守るための偏りがないか、我々は確認する必要がある」
場の空気が一瞬にして凍りついた。
AIが俺を最優先排除人物として設定したのは間違いない。
そして──もう一つ、間違いのない事。
それは、俺という人物を台風の目にして、人類の持つ【不信】という最も古い欠陥を利用し、チームの内部崩壊を誘おうとしている事実だ。




