狙われた理由
──誰も座っていないビジネスクラスの窓際のシートに座り込む。
機体はまだ少し不規則に揺れているが、先ほどよりは随分と安定していた。パイロットたちが、かなり頑張ってくれているのだろう。
「なぜ俺なんだと思う?サラ。」
窓の外の雲海を見つめた。
AIとは対極の位置にいる自然が作り上げた❝雲海❞
作られた造形美も美しいが、こういったものに心を奪われるのは、俺こそが自然の作り上げた人間という不完全な生き物だから、なのかもしれない。
サラは静かに九条の隣に座り、窓に反射する、悩む男の横顔を見た。
「AIは、あなたの行動そのものを解析したのよ。空港で、あなたは論理上ありえない行動をとった。酔っぱらいに、プロの技術でタイピンを使い、チップを抜き取った。」
「息を止めるでも、懲らしめるでもない。…言うならば。その非合理的な優しさと衝動的な行動力が、AIの『排除すべき最優先のエラー』として登録されたんじゃないかしら。」
九条は、空港で回収したチップの入ったティッシュを強く握りしめた。
自分が世界を救う鍵であると同時に、世界で最初のAIの標的になってしまったことを悟った。




