謎めく美人なヨーロピアン
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急いでブリッジを走り抜け、飛行機のドアを滑り込むように通過した。
「お前のせいで遅れてるのか」とでも言いたそうな乗客の瞳の中、エコノミークラスの狭い通路を進み、指定された席にたどり着く。
座席は中央列の真ん中。長時間フライトには最悪の場所だ。
「……理星、センス無えな」
座席に体を押し込もうとしたその時、背後から聞き慣れない美しい声の英語が聞こえた。
「おや、九条怜捜査官でいらっしゃるかしら?」
九条が振り向くと、そこには息をのむほど洗練された美貌の女性が立っていた。
艶やかなブロンドヘアは完璧なボブに整えられ、シックなネイビーのスーツは構築的なシルエットを描いている。
上品な肌見せと、微かに香る高級な香水。まさに全世界の女性がお手本とする様なクラシックなスタイルだった。
彼女は、自らの座席番号を示すカードを指でタップしながら、優雅に微笑んだ。
「ようこそ、エコノミークラスへ。でもご心配なく。私はサラ・ルブラン。フランス対外治安総局(DGSE)の者です。どうやら、あなたの横が空席になったようです。ですがあなたも私も、こんな狭い場所で頭脳を動かすのは非効率でしょう?」
九条は訝しげに目を細めた。
隣の席の乗客がキャンセルしたにしては、タイミングが良すぎる。
「それは、フランス諜報機関の力ですか、それともただの偶然ですか?」
「さあ、どちらでしょうね? でも、せっかくの長旅です。効率を重んじるなら、ビジネスクラスへ移動しましょう。どうやら、私たち二人の分だけビジネスが開いたようですから」
意地悪だけど可愛らしい表情でウインクをする彼女を見て、すぐに状況を察した。
これはDGSEの力を最大限に利用したサラの仕掛けだ。
そして、彼女の背後には「知人に頼みます」と言っていた理星が居るのだろう。




