ルーブルの花束
──パリ、冬の朝。
空は鉛色に曇り、セーヌ川を渡る風は骨の芯まで冷たかった。
初めてのフランス・パリだ。
だけど、飛行機を降りた瞬間、空気の匂いがアメリカともハワイとも違うと分かった。
フランスの空気には知性とユーモアと、そしてセンスがあふれている。まるでサラの息遣いが、まだこの世界に残っている様だった。
到着ロビーの出口で、ひとりの青年が立っていた。
彼は黒いコートに身を包み、淡い金髪をしていた。隣で手を繋がれている八歳くらいの男の子も、同じ様にブロンドヘアを靡かせていた。
「……九条さん、ですね。」
「ああ。あなたが──」
「サミュエル・ルブラン。サラの弟です。今回は連絡を下さり、ありがとうございました。サラからもよく話は聞いていました。」
短く握手を交わすと、その隣で小さな手が俺の指に触れた。
「サラ姉ちゃんの彼氏?」
俺はそんな純粋な問いに『ああ、そうだ』と答えてから、少年の頭を撫でた。
──サラからサミュエルの苦労もこの子の母親の事も聞いている。
サラと、そしてサミュエルの妻も、犯人は違えど命を奪われた。
それでもサミュエルは穏やかに微笑んでいた。
その笑顔に、かつてサラが言っていた「家族を守る」という強さを見た様な気がした。




