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静けさの果てに
──12月30日。理星と共に帰国して、三日が経った。
働き詰めだった俺達は今、有休消化中だ。
……と云っても明日の年末は仕事に出ないといけないが、挨拶で終わるからすぐに帰ってこれるだろう。
帰国してからの俺の生活は、撮り溜めた大河ドラマを見たり、時間を気にせずサラとテレビ電話をしてみたり、『これが平和か』と再実感できる様な退屈で、だけど美しい日々だった。
──カーテンの隙間から漏れる光が、机の上の灰皿と書類を照らす午前11時。
遅い朝だ。俺は寝起きの煙草に火を付けてから、コーヒーメーカーの電源を入れた。
音が豆を挽く音が静かに鳴り、白い湯気がゆっくりと上がる。
ふと、サラの笑顔を思い出した。
レ・ミゼラブルの幕が上がる瞬間に彼女が見せたあの横顔。テレビ電話で見せてくれた寝落ちした時の無防備な顔、俺の日本でのだらしない生活を聞いて大口開けて笑う笑顔……。
どれを取っても俺の今の❝笑顔の源❞である事は間違いない。
愛している彼女の様々な表情が、まだ、心の中で鮮明に輝いていた。
──その瞬間までは。




