非効率が生み出す美しさ
********************
初めて訪れた劇場は一言で言うと【圧巻】だった。
大昔に母親に連れられて宝塚を観劇しに行った遠い日の記憶がふとよみがえった。
煌びやかな電飾が天井を埋め尽くし、遠くでトランペットが鳴る。
俺たちは並んでチケットを見せ、館内に入った。
サラが隣のシートに腰かけると、ふんわりと甘く女性らしい香水が上がってくる。胸が高鳴る鼓動を隠すべく、小さく咳払いをする。──すると、ナイスタイミングで証明が落ち、舞台の幕が上がった。
********************
音楽が鳴り響き、俳優たちが命の限りに叫び、泣き、笑っている。
サラの横顔が、ステージの光を受けてきらめいていた。あまりに綺麗すぎて、儚すぎて、俺は目を逸らすことができなかった。
「私を見過ぎよ、怜。集中できないわ。しっかり前を向いてなさい」
「あっ、ごめん。ついつい…」
「フフッ。……ねえ、彼らは、どれだけ傷ついても立ち上がるでしょう?きっとAIには、これが理解できないのね。」
彼女の囁きは、歌声と重なって消えていく。
俺は短く笑いながら、彼女の言葉に答えた。
「……そうだな。俺たちは非効率だ。だけど、それでいいんだ。」
気づけば、彼女の指先が俺の手に触れていた。
それは、あの戦場よりもずっと熱くて、柔らかかった。俺も彼女の思いにしっかりと答えるべく、強く、その華奢で白い手を握り返した。
──きっと自由を求める舞台の表す趣旨とは違うだろう。だけど「俺は彼女を一生涯守りたい。」そう思わせてくれたレ・ミゼラブルだった。




