ドミトリの本当の姿
「生まれた時から?」
俺は電話を切って間抜けな声でそう言った。
メンバーの顔も、心なしかキョトンとしている。普段から冷静な面子ばかりが集まったこのチーム。全員がここまで間抜けな顔をしていた事なんてあるだろうか?
「待って、確かドミトリはモスクワ大学を卒業していたわよね?」
「ああ、そうだ。学生時代は柔道をたしなんでいた。」
「他に知っている情報、有る?」
「……。俺が前に酔っぱらったアイツから聞いたのは自分はシングルマザーで女手一つで育ててもらったという事。そして学生時代にウラジーガ・プリチと柔道で組み合った事があるという事、だ。」
そう、キムが発する。キムの顔も大統領の言葉に驚きを隠せない表情に包まれていた。
「もし、ドミトリが大統領の私生児だったら…?」
「……。」
サラが開けてはいけないパンドラの箱を開けるかの様に、慎重に、だけど少し確信を踏まえた声色でそう続ける。──私生児、か。充分に有り得る話だ。
「プリチは確か嫁と数年前に離婚している。噂によると若い頃からエリート街道まっしぐらで、かなりモテる人物らしいから私生児が居ても何ら不思議はないだろう」
「それだと、何故あれほどまでにドミトリが❝モテる❞事に固執していたか分かるわね。きっと、幼い頃に貰えなかった愛情や、欲しい人からの賞賛を、今、女性から求めていたのでしょうね」
サラがファイサルの言葉にそう付け加えると、珈琲カップに口を付けた。
そんな会話を聞いていたライリーが小さく手を叩く。
「そうだな、それだと──ロシアがここまで協力的なのも納得がいくし、ドミトリが個人的に大統領に報告していたのも納得がいく。幾ら、ドミトリが将来有望だとしても事件の捜査進歩を大統領に個人的に報告するなんて事例は、余り聞いた事がない」
そして点と点が繋がったかの様に、清々しい表情でそう言い切った。
「だけど、これは良い前触れだな」
俺が煙草に火を付けながらそう言うと、ファイサルもつられた様にして自らの煙草に手をかける。──俺は一日に一箱も吸わないけれど、コイツは一体何箱吸うんだろう?
かなりのチェーンスモーカーである事は間違いなさそうだ。
「どうしてだ、怜?」
そして白い紫煙を吐き出すと俺にそう問いかけた。
「だってそうだろ?俺は日本人だ、大昔にロシアに約束を破られているからウラジーガの個人的な協力は有りがたいが心の底から信用できずにいた。きっと何かしらの見返りを後で求められるんだろうな、とか」
「だけど、ドミトリが彼の私生児かもしれない点を踏まえると、ウラジーガの協力したいという気持ちは簡単に理解できる。何てったって血肉を分けた……政府中核に引き入れようとしていた自分の息子が、カルトまがいの集団によって殺されたんだからな」
「多少のリスクを冒してまで息子が助けたマリア母子を引き受ける決意をしたこと、国は動かせないが個人的に動ける範囲なら何でも協力すると言い切った姿勢──それらから考えると、大統領がこの一連の作戦に協力したからといって俺達に見返りを求める事はないだろう」




