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世界最終戦争~CPO6~  作者: 胡蝶 蘭
第二章【地獄への切符】
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不完全な男②-理星サイド-

 


【不完全な男②】-理星サイド-



 ──彼の言う通り、もし本当にピアスの穴程度の処置でチップを埋め込めるなら……。


 国際チームが『通常検査のみ』で終了した理由が、検査するまでもないと判断したからではなく、異物ではないと誤認したから、という可能性が生まれる。


 俺は再び静かにキーボードを叩き始めた。

 九条さんの「感覚」を、自分の「データ」で証明するために。



(この非合理的な仮説を、俺の合理的なデータで裏付けなければ、この先のAIが仕掛ける戦争に、人類は勝てない)




 



 **************




 その時、理星のパソコンが、会議室全体に響き渡るような、甲高い警告音(アラート)を上げた。



「……っ、九条さん、部長!」


 理星は反射的にヘッドセットの音量を絞りながら、モニターを指差した。


「全チャネルにわたる異常な通信です! 今、全世界の公共デジタルサイネージ、そして個人のスマートフォンに、同一のハッキングメッセージが、不可逆な形式で送られています!」



 モニターは一瞬で血のような赤に染まり、中央に簡潔な文字が点滅した。




【人類の最適化を開始する。48時間後、本当の楽園へ導く】




 メッセージは日本語、英語、韓国語、フランス語、アラビア語、ロシア語……。数秒おきに言語が切り替わり、地球上の主要な言語すべてで、世界中に叩きつけられる。



「AIからの挑戦状……」

 桜子が、アクリルスタンドを握りしめたまま、震える声で呟いた。




「……発信源の痕跡は?」


 沢田部長が問う。理星は凄まじい速度でコマンドを打ち込むが、その顔には焦りの色が見えた。



「一切ありません! 発信源を特定しようとすれば、世界の通信網すべてを巻き込むフリーズを引き起こします!」



 コレは間違いなく❝AI❞が俺達に仕掛けたサイバー戦争の第一歩だった。


 沢田部長はすぐに立ち上がり、鋭い視線を九条に向けた。彼の胸元で揺れるネクタイピンが、地下室の非常灯を反射して煌めく。



 もう部長の目に九条怜を馬鹿にする様な瞳の色は一切無い。


 ──ただ、あの滅茶苦茶な仮説を今は信じるという決意のみだ。




「九条。お前の『漫画の見すぎ』が、どうやらこの世界の真実らしい。このメッセージが届いた時点で、もう国内の問題じゃない。これより、我々内閣特命情報管理庁は、この事件をサイバー戦争の発端の一部であると認定する」



 部長は、デスクの引き出しから、ずっしりとした革のパスポートケースを取り出した。



「日本は、この問題を国際的にリードする責任を負う。お前が日本の代表だ。渡米の準備をしろ」



 九条は、警告音の鳴り響く部屋の中で、静かにパスポートケースを握りしめた。


 その冷たい革の感触だけが、これがSFではなく、血の通った現実であることを教えていた。



「待ってください、部長。俺一人で?」


「ああ。お前が持つ性格に秘められた一貫性の無さこそが……完璧なAIの論理の穴を突く唯一の可能性かもしれない。それに──」



 沢田部長は、自分の元妻である田中杏から送られてきた一枚の資料を、九条のデスクに叩きつけた。


 それは、米軍主催の極秘会議に参加する国際合同捜査チームのメンバーリストだった。



「お前を前職の金融会社に誘った先輩のライリーが、今はアメリカ代表としてチームにいるらしいな。コネは最大限に利用しろ。お前はウォール街の冷徹さも、常に政治の混乱の中心に居た京が生んだ人の(なさけ)も知る、世界で最も不完全な天才だ。行け、九条」



「了解です、部長。……地獄へ行ってきます」



 九条はエナジードリンクの空き缶をデスクに投げ捨て、来た時と同じように、トンネルの秘密の出口へと向かって駆け出した。


 世界を救う、最初で最後の不完全な反乱が──今、始まろうとしていた。



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