個人的な義理の先に
俺はドミトリが残した暗号化された端末を手に取った。
「ドミトリの遺した端末から、ロシア大統領の非公式回線に発信します。此処からの発信となるとアメリカ側の盗聴リスクも踏まえて話せるのは15分間のみです」
理星の言葉に頷いた俺は、コール音に耳を澄ませる。
4コール程してからだろうか──電話越しの向こうから重々しい大統領の声が響いた。
「お久しぶりです、大統領」
「どうした?今から会議だ。内容は簡潔に頼む。」
「ドミトリの弔い合戦の場所が決まりました」
「………」
「場所はホワイトハウスです。貴方には一つ、頼みたい事がある」
「個人的に動ける範囲なら何でも言ってくれ」
「三日後の12月23日、クリスマスイブの直前の午前11時に非公式にアメリカ側に連絡を取れますか?そして、その時にこう言ってほしいんです。『本日、午後12時に記者会見をするらしいな。一連の世界で起きていた連続殺人がまさかAIの暴走だったとはな。さすがアメリカだ。真相を突き止めてくれてありがとう、感謝する』と──」
俺のその言葉に拍子抜けした様な顔をするメンバーたち。まあ無理もない、今思いついた理論も何もない作戦の中身なのだから。
だけどそれとは反対に、様々な場数を踏んできている大国のトップは、フッと小さく笑うと『了解。兵器は必要か?』と俺に問いかけた。
「いや、要りませんよ。俺達は命を奪う為に戦うんじゃない。命を守るために戦うんです」
「……そうか、分かった。」
「ドミトリには世話になりました。メンバー全員。アイツは本当に…純粋で、それでいてクールで、面白くて良い奴でした。」
「……生まれた時からそうだった。もっと早めにアイツを認めてやれば、こうはなっていなかったかもしれない」
そう、予想外の事を発した大統領。俺達の視線が交わる。
「……電話の件は了解した。どういう魂胆でそれを求めてきたのか作戦の詳細は分からないが、それが無いと成功しないのだろう?協力させてもらう。」
「以上だ。また報告してくれ」
そう言い切ったウラジーガ・プリチは、一方的に電話を切った。




