❝サラ❞ちがい
道中、二人は簡単な会話を交わした。彼女は気取らない、とても明るい性格を持っている様で、こんな一般人の俺にも普通に話をしてくれる。
──こんな風に、普通の会話をするのは一体いつぶりだろうか。そんな考えが俺の頭へ浮かんだ。
「だけど、見られちゃヤバイよな」
「へっ、誰にですか?」
「あっ、ああ…」
何も考えずに出た自分の独り言が、隣を歩く彼女に聞こえていた事に驚く。さすが、大女優だ。耳が良い。思わずそう言いそうになった。
そしてそれと同時に❝サラに見られる事❞を気にしている自分の心にも少し驚く。
──あの日、俺はサラの言葉に返事をしなかった。
それは勿論、無責任な言葉を発して彼女を傷つけたくないという思いもあったが、こんな現状の中、俺の心が本当にサラを愛しているのか・愛す事が出来るのかが分からなかったからだ。
だけど【この姿を見られて、サラをこれ以上、悲しませたくない】……そうシンプルに思った俺の心は『愛が哲学ではなく魂そのものだ』という事を俺の凝り固まった脳へと教えてくれる。
――俺はきっとサラが好きなんだ。大事に思っていて、これ以上彼女を悲しませたくないんだ。
そんな事実に気付いたのは少し遅かったかもしれない。
俺は男だ。それなのに彼女に先に自分の心を曝け出してもらい、それに対しての返事も彼女の好意に甘えてしなかった。
自分の情けなさが刃の様に心の奥底へと突き刺さった。
そして、そんな沈んだ俺を見た、別の人物である沙羅は、俺の愛している❝サラ❞と同様に頭の回転が速い様で、話題を変える。
「そういえば、九条さんは何の仕事をされているんですか?」




