重圧からの解放
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マリアとユーリを飛行機に無事に乗せた俺達は、NISの協力により得たアシアナ系プライベートジェットが無事にアメリカを離れたのを見て、ホッとする。
あの機内にはNISのキムの部下が同乗している。もし、何か不審な事があっても逐一、俺達にキムを通じて連絡が入るだろう。
勿論、彼女たちが無事にモスクワへ着くまでは安心できないが、少しばかりの安堵が一気に俺の体を疲労へと傾ける。
モニターに映るジェットを見つめながら、円卓へ上半身をベタッと付けた俺は恥を承知で本音をぶつけた。
「俺も、もう年だ。アメリカに到着してからここ数日、ひたすらに動き回ってる。しかも全部、人の死が絡んでな。──昔みたいに、体と脳をフル回転させて、それでも毎日バリバリ動けるほどタフじゃないぜ…」
「日本は平和慣れし過ぎなんだ。同じアジア人でもここまで体力が違うと情けなく思えてくるぞ、九条。しっかりしろ」
そう言いながらテイクアウトしたハンバーガーを貪るキムの前には、ユーリから貰った手紙が置かれてあった。俺が思うに、ユーリの❝初めて憧れた男❞は、きっとキムなんだろう。
──まあ確かにあの場で一番子供が憧れるヒーロー像に近いのはクールで、そして筋肉も有って、顔も恰好良いキムに違いない。
そう納得しながら、疲労により瞼が重くなっていくのを感じた。
ファイサルも例外ではない様で、俺と同じくベターッと机に伏せながらスマホを触っている。
「ファイサル、何してんだよ」
「株だ。マリア母子に渡した現金は俺の個人的な金だからな。あの分は株の取引きで取り返そうと思ってな。」
「ハッ、お前も本当冷静なやつだな」
そんな俺を見てサラがクスっと笑う。俺も彼女のその笑顔を見て、少しだけ口角が上がったのを感じた。




