この世界で生まれた愛①
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俺達は母子を守る為、別々になって行動する事にした。
先ずは逃亡ルートを確保する必要があるキムと、俺とサラが会議室へ戻った。
ファイサルと理星とライリーは彼女のアパートで仮眠を取り、俺達が交代で向かう迄、室内で母子の警護をしてくれる。
ライリーも念のためNYPDの信用出来る部下に連絡を取り、アパート周辺の厳重警護を要請していた。多分あの感じだと30分に1回はパトカーが周囲を回る段取りだろう。
「理星は向こうでチップの解析を進めているだろう。キムも疲れのところ悪いが、至急マリアの逃亡ルートの確保だけ頼む」
俺が疲労を滲ませながらそう言うと、タフなキムは「ああ。」と一言だけ告げ、ドミトリの空席に一瞬目をやってから、タブレットとスマホを持ち自室へ戻った。
「レイ、貴方も少し休んだら?」
サラがデリンギで淹れてくれたカフェラテを俺の前へ置く。可愛らしいマグカップは初見だった。きっとサラが母国から予備で幾つか持ってきていた物の内の一つだろう。
「あ、ありがとう。サラ」
「自分のものを淹れるついで、よ。」
そうウィンクした彼女は自らのピンク色のマグカップを両手で包み込み、その温度を確かめていた。まるで、その姿はDGSEの凄腕諜報員ではなく、一人の可憐な少女の様だった。
「ねえ、怜。私ね、本当は弱いの。常に迷い、常に戸惑っているわ。だからそれを隠すために必死に勉強をして、周りに遅れを取らない様に必死に動いてきたの。」
「でも結局、義妹しかり、ドミトリしかり大事な人を亡くしてしまう。私はいつも彼達を守れないのよ」
彼女の持つマグの中に一筋の涙がこぼれた。
「本当、自分に自信を失ってばかりよ。情けないコトに。………だけど、貴方はいつもこうして私が不安に、寂しさに、自分の情けなさに押しつぶされそうな時、必ず傍に居てくれるの」
椅子に座り、ただただ前を向き話を聞いていた俺をサラは後ろから抱きしめた。彼女のブロンドヘアが俺の首元に当たり、距離の近さを示す様に、かすかに彼女の甘い香水の香りが鼻まで上がってくる。
「私は『愛は魂の方向へ行く』という言葉を決して忘れない。この任務が終わるまで、貴方に何も聞かないわ。そして、迷惑もかけないわ。」
「だけど一つ約束して頂戴──レイ。絶対に貴方は、貴方だけは、私から離れないでほしい。貴方は、私の……生きる理由なの」




