ファイサルの愛の保証
マリアのすすり泣きを聞いたファイサルは静かに立ち上がった。そしてマリアにいくつかの質問をする。俺達にその質問の意図はまだ理解できなかった。
「マリア・ザキトワ。何か国語話せるんだ?」
「……ロシア語とドイツ語、そして訛りは有るけど英語も」
「最終学歴は?」
「専門学校卒業よ。美術系の学校へ行ってた。…なぜ?」
ファイサルは絶望にまみれた顔をするマリアの隣へ静かに座る。そして、ただ前を向いて静かに続きの言葉を発し始めた。
「君が知っているかは知らないが──イスラムという厳格な宗教の中では女性は守るべきものとして記されている。その理屈から『美しい女性が男を惑わし危険に遭わない様に』ヒジャブを被り顔や体を隠す様なルールが事細かく作られたんだ。」
「つまり、説明するまでも無いが女性の性を売る事は堅く禁じられている。勿論、男女問わず危険な行動をしない様に飲酒も、な。──でも俺も、そういう仕事をする事でしか生きるすべが無い状態の者がいる事を知っている。だから君を責めるつもりなんて一ミリも無い。」
「ドミトリは、私の拝金主義はモテないと言った。それは多分、純粋に誰かを助けたいという気持ちには負けるということだろう」
ファイサルは、ドミトリの青いノートをちらりと見た後、マリアに真っ直ぐに約束をする。
「マリア・ザキトワ。君と君の今後の生活は、どうにかして俺が保証する。私は家族のツテを使い君に今後の安定的な生活を約束する。危険な目に遭わない様に、その生活の元で息子の笑顔を守れ。」
「君は自分に自信が無いのかもしれない。」
「だけど女性という生き物は生きているだけで、世界を明るくする生き物なんだ。そこにその語学力と来たら、後は大丈夫だ。しばらくの金は用意する、どうにかしてUSCPA辺りの会計資格を取りなさい。君なら大丈夫だ」
ファイサルは、不安の渦に巻き込まれている彼女に男として、そしてドミトリの意思を継ぐものとして、彼女に自立するための現実的な道を示した。




