表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/35

第29話 思い出の裏庭

◇◇


「リューン様。こちらは、もういいので、二人で抜けませんか?」

「…………………は?」


 いい具合に、挨拶回りが済んで、お酒も進んでいた頃……。

 アルカは、すっかり場に溶け込み、愛想笑いを身につけていたリューンに、そう切り出した。

 青白花祭の宴は、明け方まで続く。

 そんなことに、疲労困憊の八十歳の彼を付き合わせたくはなかった。

 リューンは二つ返事で了承して、そっと抜け出したアルカについて来たが、少し不安そうだった。

 アルカも正直心配だったが、自分で誘った手前、どんと胸を張るしかなかった。


「平気ですよ。リューン様。領主なんかいない方が皆、寛げますから」

「…………まあ、そうかもしれませんけど」


 リューンが微妙に納得しながら、渡り廊下を真っ直ぐ進むアルカに続く。


「で、アルカさんは、何処に、行くんです?」

「リューン様を、お部屋にお送りしているんです。随分と無理をなさったと思いますので、部屋で休んでください。八十歳の御身では、夜の宴会は疲れるはずです」

「………はあ」

「分かっています。そのお姿、魔法で若返って下さっているんですよね? 皆の手前、魔導師に年齢は関係ないと仰ったのでしょうけど、でも、ここ最近、様子がおかしかったのは、私がリューン様に、無理をさせてしまったからですよね? 私、本当に申し訳なくて。貴方に謝罪をしたくて……ずっと」

「それは違っ……! ……いや。まあ、そうきますよね。ええ」


 リューンが暗い声で、ぼそぼそと言った。

 先程の鋭さは、何処にいったのだろう。


(嫌だわ。きっとリューン様は、体力切れなのよ。早く部屋に帰して差し上げないと)


 アルカは、慣れない靴で早歩きになる。

 しかし……。


「リューン様?」


 突然、ドレスの袖を、リューンが軽く引いたのだった。


「ねえ、アルカさん」

「はい?」

「もしかして、私を送ったら、その足で宴会に戻ろうなんて考えていませんか?」

「………そ、そんな、まさか」

「考えているようですね」


 真顔で、きっぱり断言されてしまった。


(バレバレなのね)


 顔に出てしまったのか?

 最後まで皆と付き合わないと、アルカは、立場上まずいと思っていたのだが……。


「それは駄目です。私を帰すのなら、君も戻って休んでください。君が宴席に戻るのなら、私も戻りますからね」

「どうしてですか?」

「あちらには、君の弟妹がいます。また何か難癖つけてくるに違いありません」

「難癖?」

「ドリス殿は、ミスレル国王の命令。ヒルデ殿は私が間に入ったことで、安易に借金が出来なくなったことに対する腹いせ。彼らは、各々目的があって、まだサウランに留まっているのですよ」

「なっ? 何ですか。それ?」


 ――ミスレル国王の命令?

 ――借金?


 そんなこと、アルカは知りもしなかった。

 単純に、二人は姉のことを嗤いに来たのだと思っていたのだ。


「特に、ドリス殿の方は、ミスレル国王の命令で私を探らなければならないようですが、どうやら探るのも面倒らしく、私達が離婚してしまえばいいと、めちゃくちゃな理屈で動いているようです」

「我が義弟ながら、そこまでするなんて。でも……そんなことまで、どうして、リューン様はご存知なのですか?」

「えっ……と。それは」


 リューンが陰鬱な表情で、頬をかいている。


「それは、君が言っていた私の「孫」が知らせてきたからですよ。あれは情報収集能力だけは長けているんです。今も少々頼み事をしているところです」

「そうなんですか。あの子にそんな凄い力があるなんて」

「別に、凄くはないですけどね」


(やけに辛辣ね?)


 どうもリューンは、あの少年に対して心証が悪いようだ。

 ……まあ、窓に逆さ吊りになって、笑っているような子だ。

 普通では、ないのだろうが……。

 でも、リューンと近しい関係なのは、正直羨ましい。


「魔法……。私も、習ったら使えるんでしょうか?」

「…………なぜ? そんなことを?」

「何となく……。思いつきですが」

()は、習う必要もないものです」

「……………」


 速攻で、断られてしまった。


(才能なし……か)


 自分が役立たずなような気がして、アルカは少し悲しかった。


「どうしました?」

「いえ、何でもありません」


 しかし、アルカが悄然としていることを、リューンは見抜いていたらしい。


「アルカさん。部屋に戻る前に、少し寄り道をしても良いでしょうか?」

「どこにですか?」

「すぐに分かります。誰にも気づかれないうちに、さっさと、行きましょう」


 有無をも言わさない勢いで、リューンは強引にアルカの前を先導して行ってしまった。


「ま、待って下さい。リューン様はお疲れでしょう? 体は大丈夫なんですか?」

「みくびらないで下さい。私はまったく疲れてなんかいません」

「そんなはず……」


 先ほど、微かに触れた手が熱かったのだ。

 絶対、早く戻って休んだ方が良いのに、彼は渡り廊下から外れて、ずんずん庭の小道を歩き始めている。

 秘密の小道。

 アルカには、彼が目指している場所がすぐに分かった。


「庭……ですか」

「そう。君が幼い頃から、悲しいことがある度に逃げ込んでいた……裏庭です」


 リューンは慣れた感じで、四阿の長椅子に腰掛けた。

 アルカは迷ったが、リューンがわざわざ手巾を広げて置いてくれたので、隣にちょこんと座ることにした。


「せっかくの青白花祭なんですから、お花見をしなければ、つまらないでしょう?」

「……花見……ですか。でしたら、もっと見栄えの良い場所が、すぐ近くに……」

「私は、ここが良いのですよ」


 迷いなく言い切られてしまうと、アルカも反論できない。

 ここは、花を愛でる場所ではない。

 アルカ以外、立ち入らないので、もはや手のつけようがないくらい、荒れ放題だろう。


(昔、有名な祈祷師から、裏庭には「魔物」が封じられてるって言われて、使用人はみんな怖くて近づかなくなってしまったのよね)


 頬を撫でる微風。

 辛いことがあった時、いつもアルカは一人でここを訪れていた。


 でも、今はリューンと二人だ。


 ランプすら用意していなかったが、月明かりが程よく庭全体を照らしてくれて、目を凝らさずとも、すべてが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ