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第28話 領主としての初挨拶

「本物?」

「ええ、本物です。君の盛装姿を見たくて仕方なかった、リューンです」


(……本物だわ)


 アルカがその言い分を信じることが出来たのは、歯の浮くような台詞だけではなく、先程のリューンと同じく、彼の呼吸が荒く、額に汗が滲んでいたからだ。


「ああ、間に合って良かった。アルカさん、ドレス……とてもお似合いです。眼福です。私、今まで生きてて良かったです」

「ええっと」


 ……大げさだ。

 しかも、若返ったせいか、以前よりも糖度が増している。

 アルカは恥ずかしくて、つい視線を逸らしてしまった。

 いつものリューンが孫の晴れ姿に言うような微笑ましい雰囲気ではない。

 今のリューンは格好良くて、しかも……色っぽいのだ。

 意識したくないのに、顔が真っ赤になってしまう。


(待って、私。リューン様よ。いくら見た目が若くても、中身は八十歳なんだから)


「はっ、気色悪い」


 ドリスの毒入りの呟きが、ぐさっとアルカの胸に突き刺さった。


「どんな手を使ったか知らないけど、魔法なんてものがあったのなら、戦争で導入されているはずだ。何か仕掛けでもあるんだろ?」


 今の今まで老人だったリューンに、容姿の点で負けているのが悔しいのだろう。

 ドリスはいつもの取り澄ました表情から、怒りを露わにしていた。


「そ、そうよ! 兄様の言う通りだわ。何処かに何か隠し持っているんでしょ?」


 ヒルデはアルカ同様、リューンの美貌に、ぽうっと頬を赤らめていたため、後ろめたいようだった。 責める声は、明らかに上擦っている。

 二人共、分かりやすく動揺していた。


「まったく」


 リューンは、落ち着いていた。

 二人の存在など、歯牙にもかけていない。


「仕方のない人達ですね。魔導師は人同士の下劣な戦いなんかに出向きませんよ。魔法というのは、たとえば……」


 言いながら、軽く片手を払う。

 すると、宴席の所々に活けてあった蕾の状態の青白花が一斉に満開となった。  


「本来、こういうふうに使うものなんです」


 ――おおっと、何だか分からないが、客人はリューンの魔法に、拍手と歓声を送った。


(もしかして、余興の一部と思われてるとか?)


「挨拶が遅れて、すまない。私はリューベルン=ウィルヘルム。皆もよく知っていると思うが、彼女の夫だ。今までは、私がアーデルハイド人ということで、ミスレル人の皆には、心証も悪かろうと、領主の仕事は妻に任せきりだったが、これからは、少しずつ私も彼女と共に励んでいきたいと思う。ちなみに、様々な憶測も飛び交っているようだが、この結婚の動機は、私の一目惚れ。政治的な意図は一切ないので、誤解のないよう……。さあ、皆、立って」


 リューンがグラスを手に取ると、客は一斉に立ち上がって彼に倣い、グラスを掲げた。

 ドリスとヒルデは、完全に今宵の主役が奪われていることに気づいたようだったが、今更だった。


「天と地の精霊に感謝を。今年の青白花祭は、亡き彼女のお父上、前領主に捧げる」


 ――乾杯!

 と、掛け声と共に、その場の全員が一斉にグラスの酒を飲み干した。

 誰一人、リューンに逆らわなかったのは、彼の乾杯の合図が「精霊に感謝する」という、ミスレル流の挨拶に倣っていたからだろう。

 内心、アーデルハイド人の領主に警戒心を強めていた者達も、リューンのまったく敵意を持たない振る舞いに、ほっと胸を撫で下ろしたようだった。


(一目惚れ?)


 そこだけは、解せないのだが……。

 そんなことよりも、アルカはリューンの体調が心配だった。

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