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第18話 青白花祭の盛装

「……青白花祭のドレスも、決めておかないといけませんね」


 リューンがぽつりと呟いた。

 そういえば、マリンも同様のことを尋ねてきたが、アルカは多忙だったため、後回しにしてしまったのだ。


 ――青白花セイレーン祭まで、あと十日。


 ドレスを新調している暇なんてないだろう。


「そうでしたね。あまり考えていませんでした。母の形見のドレスでも着ようと思います。父の喪も明けていませんし、地味でいいかなって」

「駄目です」

「えっ?」

「サウランの代表として、軽んじられるわけにはいきません。ここは相応に着飾らないと……。私も失敗しました。君がこういうこと、苦手だって知っていたのに」

「はあ」


 ぽかんと、大口開けたままのアルカを鼓舞するように、リューンは少し興奮気味に捲し立ててきた。


「分かりませんか? アルカさん。今回の宴席は、君のお披露目会でもあるのですよ。君が主役なんです」

「いや、そんなはずありませんって。誰も私のことなんて……」

「控えめな自意識は捨てて下さい。君は美しい女性なんです。もっと胸を張るべきなんです」

「リューン様?」

「お金なら私が出します。期日にだって、人を揃えれば間に合うはずです。腕の良い職人を連れてきましょう。ミスレル風が良いのなら、注文すれば、そのように作ってくれるはずです」

「待って下さい。おかしいですって。貴方にそこまでお願いするのは……」

「妻を存分に着飾らせることが出来るのは夫の特権です。君の喪服姿も良いのですが、そろそろ盛装姿も見てみたい。これは私の我儘です」

「……うっ」


 リューンは、いつも、そういう甘やかなことをアルカに囁いてくる。

 まるで、アルカの性格を知り尽くしている「レト様」のようだ。

 いや……それだけじゃない。


(レト様みたいだけど、老人でもないような?)


 時折、アルカはリューンが若い男性ではないかと、疑ってしまうことがあるのだ。

 しかも、なぜか獲物を狙う肉食獣のような瞳で、アルカを見ているような気もしてしまって……。


(疲れているんだわ……。私)


「やはり、青白花にちなんで、青いドレスが良いですかね? ああ、楽しみで仕方ないです」

「楽しみ?」

「当然です。こんな機会、滅多にないんですから。君の盛装姿が見られたら、感動で号泣してしまうかもしれません」

「……まさか」

「あははっ。その「まさか」起こるかもよ」

「へ?」


 にわかに飛んできた冷やかしは、当然、リューンの声ではなかった。

 アルカの聞き違いでなければ……。

 少年……のような?


「何? 幻聴?」

「楽しそうだね。お二人さん」

「わあっ!?」


 驚いたのは、恐怖からではなかった。


(……逆さ吊り?)


 愛らしい少年が、まるで蝙蝠のように逆さでぶら下がって、部屋の中を覗きこんでいたのだ。


(危険だわ)


 落ちたら、大変だ。

 アルカの感想は、真っ先にそれだった。


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