表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

負けた方は1枚ずつ服を脱ぐ

 私は言った。

「店長さん、あなたはもうすぐ捕まる。私たちとあなたを繋ぐ糸は太い。万引きした直後に私は誘拐された。そのコンビニの店長は真っ先に疑われる」

「私にはアリバイがありますよ。あんたが捕まったとき、私は店で働いていたんです。捕まらないよ。警察の事情聴取ならもう受けました。私は単なる参考人です。毛ほども疑われていない」

「実行犯はそこにいるもうひとりの人なのでしょう? あなたの親しい人にちがいないわ。ふたりとも捕まる」

「捕まりませんねえ。そもそもあんたたちは行方不明になっただけだ。あんたは家出をしてもおかしくない家庭環境にいたようじゃないですか。今のところあんたはただの家出人ですよ。髪の短い子も誘拐されたという報道はないですね。あんたたちが思うほどこの件は騒ぎになっていないし、警察も誘拐事件として扱ってはいないんです」


 私はしばらく考えた。

「でもこれは実際に誘拐事件だし、中央2丁目のコンビニに出入りするふたりの女子高生が同時に行方不明になったのだから、時間の経過と共に騒ぎは大きくなり、警察はやがて真実に辿り着く。店長さん、万引きを懲らしめるためだけに、どうして誘拐なんて大犯罪を犯したの?」

「ふざけんなっ! 万引きは大罪だっ」

「…………」

「別に答えなくてもいいんだが、あんたたちを苦しめるために教えてあげますよ。私は万引きする女が大嫌いなんだが、すごく興味もあるんです。面白半分にコンビニの商品を盗む品性下劣な女に前から興味があった。いつか目にもの見せてやろうと思っていた。最近可愛い女子高生ふたりがうちの店で怪しい動きをしているのはわかっていました。万引き犯だろうと見抜いていましたとも。ふたりとも私好みの可愛い女の子です。すごくいい機会だと思いました。捕まえて存分にいたぶってやろうと決めました。そしてそれは成功した。これは私の長年の夢だったんです。あんたたちをもっと苦しめてやりますよ。あんたがまだ冷静なのが気に入らないな。泣き叫んで後悔するところが見たい。涙を流して私に許しを請うところが見たい。どうしましょうか。どうすればあんたは苦しみますかね」

 店長が長々としゃべる。

 第1の男が口を挟んだ。

「店長、ふたりに野球拳をさせよう」

「それはいいアイデアだなあ」


「野球拳ってなに?」と虹山さんが言った。

「じゃんけんだ。負けた方は1枚ずつ服を脱いでいくんだ」

「そんなの嫌……」

 彼女が言うとおり、私だって嫌だった。

「やれ。やらないと明日の水は半分の1リットルになる」

 虹山さんの顔面が蒼白になった。

 私は歯を食いしばった。

「虹山さん、やりましょう。水はなによりも大切よ」

「服を脱ぐのは絶対に嫌!」

 彼女は首を激しく左右に振った。

 涙ぐんで嫌がっている。

 相当に抵抗感があるみたいだ。

「これは面白いことになりましたね。いい見ものだ。さっさとやってください。負けた方は必ず服を脱ぐんですよ。やらなければ1リットルだ! ふへへへへ」


 私は覚悟を決めた。犠牲になろう。

「私はパーを出すから」

 虹山さんは私を疑わしそうに見た。

「パーよ。信じて」

「……わかった」

 私たちはじゃんけんをした。私はパーを出し、彼女はチョキを出した。

 私はゆっくりと白いワイシャツに結んであるネクタイをほどいて、床に投げ捨てた。

「ちゃっちゃとつづけろ」と男は言った。

「パーを出す」と私は言って、パーを出した。

 虹山さんは泣きながらチョキを出した。

 私は制服の上着を脱いだ。ブラウンのブレザー。

 私はパーを出し続け、虹山さんはチョキを出し続けた。

 靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、ワイシャツを脱いだ。

 私の上半身は白いブラジャーだけになった。

「ごめんなさい」と虹山さんは言った。私よりも苦しそうだった。


「続けてください。なかなか面白い見ものだ。脱いでいる方ではなく、脱がした方が泣いている。どうしても脱ぎたくない事情があるんだろうなあ。面白くなってきた。さあ野球拳を続けなさい!」

 私はまたパーを出した。そしてブラウンのプリーツスカートを脱いだ。

 上下とも白の下着姿になった。

「嫌だあ。もう嫌だあ」

 激しく泣き出したのは私ではなく、虹山さんだった。

「続けなさい」と店長は言い、「今日のところはこのあたりにしておこうぜ、店長。裸の辱めと空腹と渇きの苦しみ、徐々に味わわせてやろうよ」と第1の男は言った。

「それもいいな。あんた、服を着るのは禁止します。以後、そのままの姿で過ごしなさい。もし違反したら、飲料水半減だ」

 ひどいことになってきた。

 さすがに私も泣きたくなったが、涙が止まらない虹山さんを見て、なんとか我慢した。

「虹山さん、泣きやんで。私は平気だから。涙の水分がもったいないよ、ね?」

 彼女は私を見てうなずき、右手首で涙を拭った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ